地球温暖化研究の第一人者が語る──気候変動対策の変遷

2025年を節目に、さらに加速する世界的な潮流「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」。Forbes JAPAN12月号別冊NEXT GX STREAM 日本発「GX経済圏」の衝撃では、GXの最前線で活躍するプレーヤーに光をあて、日本がGXをリードするための道筋をお届けする。

音楽プロデューサー・小林武史とアスエネ創業者・西和田浩平の気候変動勉強会や、GXに本気で取り組む日本企業のGX RANKING、次世代のスタートアップを選出したNEXT GX STARTUPS 50など、GXの現在地がわかるような様々なコンテンツを特集する。

科学的発見から国際政治の課題となり、今や経済成長の機会として捉えられる気候変動対策。京都議定書からパリ協定まで、その歴史的変遷と日本の果たすべき役割を気候変動研究の第一人者である江守正多教授とともに探る。


気候変動に関する問題は、どのような経緯で科学的議題から国際政治の課題へと発展していったのか。江守教授は「地球温暖化の原理は200年以上前に発見されていた」と指摘する。

「地球温暖化の原理、つまり、大気中の二酸化炭素(CO2)が赤外線を吸収して、地球を温めるという『温室効果』の概念は、1800年代に発見されていたのです。フランスの物理学者で熱伝導に関するフーリエの方程式を導き出したジョセフ・フーリエは、1824年に発表した論文で、地球が太陽から受ける熱エネルギーの量と地球の平均気温を比較して、太陽光からの熱だけではなく、何か別の要因が地球を暖かく保っていることを示唆しました。彼はこれを温室のガラスにたとえて説明し、後に『温室効果』と呼ばれる概念を提唱しました」

しかし、本格的な研究が始まったのは20世紀に入ってからのこと。アメリカのチャールズ・デービッド・キーリングが1958年以降、ハワイでCO2の継続観測を開始し、大気中のCO2が増加していることを確認した。また、同時期に眞鍋淑郎(2021年ノーベル物理学賞受賞)がコンピューターを使った気候変動の理論計算を始める。

「1980年代になると、専門家の間では、CO2増加と地球温暖化の因果関係は理論的に確かとされました。そして、IPCC報告書の表現も第1次(1990年)は『気温上昇を生じさせるだろう』から徐々に確定的な表現が強まり、最新の第6次(2021年)では『疑う余地がない』にまでなったのです」

このような科学的知見の深化は、国際政治にも大きな影響を与えた。1992年のリオサミットに先立って国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が採択されると、議論の場は科学から国際政治へと移るが、そこには意外な力学が働いていた。

「冷戦が終わったことで国際政治課題の空白ができ、それを埋めるように地球環境問題が注目されていったという側面があります」

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text by Kenji Yoshinaga | photograph by Yoshinobu Bito | edited by Miki Chigira

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