「あらゆる研究で、最終的にはこの数字が出現する。対象が作曲家でも、バスケットボール選手でも、小説家でも、スケート選手でも、コンサートピアニストでも、チェス選手でも、犯罪の天才でも同じことだ」
「もちろん、この結果だけでは、同じ練習量で成果に違いが出ることの説明にはならない。しかし、1万時間に満たない練習量で真に世界クラスの専門家になったという例は、これまで一度も発見されていない。どうやら人間の脳は、この長さの時間をかけないと、真に卓越したスキルを身につけるために必要なものをすべて吸収することはできないようだ」
「神童」にもあてはまる
この法則は、いわゆる「神童」と呼ばれる人たちにもあてはまる。たとえば、モーツァルトがわずか6歳で作曲を始めたというのは有名な話だ。しかし、心理学者のマイケル・ハウは、著書の『天才の正体(Genius Explained)』の中で次のように書いている。
成人の作曲家の基準で評価すると、モーツァルトの初期の作品は特別に秀でているわけではない。最初期の作品は、おそらくすべて父親が譜面を書いたのであり、そしてその過程で改良が加えられたと考えられる。ピアノとオーケストラのための協奏曲の最初期に書かれた7作品など、ヴォルフガングの幼少期の作品の多くは、だいたいにおいて他の作曲家の作品の焼き直しだった。
それら初期の協奏曲の中で、完全にモーツァルトのオリジナルと呼べる音楽を含んでいるものは、現在は傑作との評価を確立しているピアノ協奏曲第9番K271だけであり、これをつくったときのモーツァルトはもう21歳だった。その時点で、モーツァルトにはすでに協奏曲の作曲で10年の経験があった。
音楽評論家のハロルド・ショーンバーグは、さらに踏み込んだ発言をしている。彼によると、モーツァルトは実際のところ「遅咲き」の部類に入る。なぜなら、代表作と呼ばれる曲を書いたとき、作曲を始めてからすでに20年以上もたっていたからだ。
チェスのグランドマスターになるにも、だいたい10年の歳月が必要になるようだ(唯一の例外は伝説のボビー・フィッシャーだ。彼は一流のプレーヤーに9年でなっている)。


