──崩壊を避け、持続可能なビジネスの構築を目指す「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」にとって最大の障害となる、支配的な文化的価値観とは何だと思われますか?
ダイアモンド:GXへの障害となる文化的価値観は3つあると思います。
一つ目は、短期的な利益を追求し、長期的な影響を無視することです。アメリカでは、現在のドナルド・トランプ政権を含め、多くの人々が化石燃料を燃やすことに固執しています。それが便利なだけでなく、既存の社会システムに組み込まれており、大手石油会社のように短期的に大金を得る人々がいるからです。これは、社会の一部が、長期的には社会全体にとって悪いことから短期的な利益を得ている典型的な例です。
二つ目は、多くの国や社会が自国の利益ばかりを考え、世界全体の利益を考えないことです。気候変動対策はその最たる例でしょう。世界最大の温室効果ガス(GHG)排出国である中国とアメリカは、気候変動によって最も大きな被害を受ける国でもあります。両国が協力することが共通の利益であるはずなのに、実際には非常に限られた範囲でしか協力していません。これは米中だけでなく、日本、EU、インドといった世界の5大経済圏すべてに言えることで、協力しなければ全員が敗者となる「共倒れ」の状況に陥りかねません。
三つ目の障害は、科学と現実を軽視する態度です。科学は、現実世界がどのように機能しているかについての知識です。それを理解していなければ、私たちは大きな過ちを犯すことになります。短期的な利益への集中、自国中心主義、そして科学と現実への軽視。これらが、GXを阻む最大の文化的障害となるでしょう。
リチウムやレアメタルのように、世界は新しい資源に依存し始めているが、従来の環境破壊を別のかたちに置き換えているだけではないのか。GXとグリーンウォッシングの見分けかたとは。
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ジャレド・ダイアモンド◎米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)教授。地理学者、進化生物学者、作家。『銃・病原菌・鉄』(草思社刊)でピュリッツァー賞を受賞。新刊の発売を米国で2026年秋に予定している。



