『文明崩壊』出版から20年──著者が自ら読み解くGXの課題と未来

もう一つ、今日において過去より深刻なのは、環境を破壊する私たちの能力です。過去の社会も木を切り倒して自らを傷つけましたが、そのころ使われていたのは石斧や小さな鉄斧でした。それが現代では鋼鉄のチェーンソーを使い、はるかに速く木を伐採できます。私が調査活動を行っているニューギニア高地では、先住民は石斧を使っており、高地を伐採し尽くすのに何千年もかかりました。しかし、現代の伐採事業は、わずか20年ほどでニューブリテン島の北側全域の森林を破壊してしまいました。

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一方で、過去よりも状況が良くなっているように思えるものが一つあります。それは戦争です。信じられないかもしれませんが、戦争を国家政府が管理し、それが断続的にしか起きなくなった現代では、戦争による死者の割合は、戦争が絶え間なかった部族社会の時代よりも低いのです。とはいえ、もちろん核戦争のリスクは依然として存在し、将来、戦争が過去よりはるかに悲惨なものになる可能性は否定できません。

要するに、私が過去の社会が崩壊している理由として挙げた5つの要因のうち、気候変動と環境破壊能力という2つの要因は、今日においてより深刻化しているのです。

文明崩壊 -滅亡と存続の命運を分けるもの - ジャレド・ダイアモンド (上・下巻) 草思社
『文明崩壊 -滅亡と存続の命運を分けるもの』 - ジャレド・ダイアモンド (上・下巻) 草思社

──ロサンゼルスにお住まいの先生は、2025年の初冬に発生した山火事に遭われたかと思います。ご無事でなによりですが、気候変動の脅威を肌で感じられたのではないでしょうか。

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ダイアモンド:「肌で感じた」というのは、かなり控えめな表現ですね。今年の1月7日、妻と息子と共に夕食をとっていた時、家の西側2kmまで火事が迫っていました。その後、さらに東側で火災が発生したと知りました。

息子は「父さん、家から避難しないと」と言いましたが、私は「まだ大丈夫だろう」と高をくくっていました。しかし、火の手は急速に広がり、最初は5ヘクタールだった焼失面積が、10分後には10ヘクタール、30分後には50ヘクタールにまで拡大したのです。すると、息子にこう言われましたよ。「父さん、馬鹿なこと言わないで。早くここから出よう!」と。

私たちは急いで貴重品をまとめました。いちばん大切なもの、すなわち子どもたちが赤ちゃんだったころの写真とバスボートを詰め、家を出ました。幸いにも、私たちの家は焼けずに済み、翌日に戻ることができましたが、今回の火事で家も家財もすべて失ってしまった友人が何十人もいます。これこそが、私たちの身に迫る気候変動の現実なのです。

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text by Yosuke Iseki | illustrations by Gerhard Van Wyk | edited by Yuko Mori

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