グローバル展開中の台湾発スマホケースブランド「ライノシールド」が、海洋保護のプロジェクト「サーキュラーブルー™」に本格着手。
でも、なぜスマホケースを作る会社が海をきれいにするのか?
この問いを、大阪・関西万博でプレゼンテーションを行うために来日した同社CEOのエリック・ワンに聞いた。
AirXシリーズは高さ18mから落としてもスマホの内部にダメージなし!
スマートフォンを買えば、ほぼ無意識に同時購入してしまうプロテクトケース。実はこのケース、毎年100億個も生産・消費されていることを知っているだろうか?
主目的は高価なスマホが壊れないように守るため。しかし近年はハイブランドやキャラクターとのコラボものなどの選択肢が増え、「どれにしようか」と、楽しみながら選べるファッションアクセサリーとなっている。
そんなスマホケース界での注目ブランドが「ライノシールド」。2013年に台湾で生まれ、今ではアジア・北米・欧州の主要都市に販売チャネルを持ち、世界中のユーザーに愛用されている。それほどの支持を獲得できた理由のひとつが、圧倒的な“保護力”だ。
ルーツは同社CEOのエリック・ワンが、ケンブリッジ大学院時代に軽量ながら鋼のように耐衝撃性の高い素材を発見したことにある。そして、その素材をベースにライノシールドをローンチ。最初はタッチスクリーン対応の保護フィルムを作り、のちにスマホケースを開発するなど商品ラインナップを増やしていった。
加えて近年は、ブランドの生命線である保護力をアップデートし、スマホの外部だけでなく“スマホの内部も守るケース”を実現させた。つまり壊れやすいスマホを守るため、従来のように「硬さと厚さで外部だけ保護する」のではなく、「吸収と反発で内部も保護する」アプローチを採用。クルマのエアバッグから着想を得たAirXデザイン設計によって、厚みはそのままながら、衝撃がデバイス本体に届く前にケースが最大81%を吸収してしまう見事な仕組みを構築したのだ。
3.5mの高さから落下しても傷つかない軍用規格を満たす保護力は、ライノシールドの全スマホケースに標準搭載。そのうえで、デザインをカスタマイズできたり、スマーフのような海外キャラや、NBAやツール・ド・フランスといったスポーツ界とのコラボシリーズを多数用意。自分好みのケースを日常使いできるところにも、人気の秘密がある。
ケースの単一素材化でリサイクル率1%未満の業界に一石を投じる
さらに先ごろライノシールドは、他に類を見ないコンセプトを生み出した。それがスマホケースの単一素材化。目的は、リサイクル効率を圧倒的に高めるためだ。
一般的に、業界内では保護性能を高めるために異素材を組み合わせた複合素材が使われている。デザイン性に富み、カラーリングもシンプルなトーンからビビッドなものまで幅広く作れ、価格はリーズナブルに。要は、収益性の高さにつなげるためである。
だが、そのぶん複合した素材を分離させなければならないなど、リサイクルへのハードルは高くなる。その困難さもあって、スマホケースのリサイクル率は1%未満が実情。1年で生産・消費される100億個のうち相当な個数が廃棄処分されているのである。この点に、ワン率いるライノシールドは強い違和感を覚えた。
現況に対してワンは「政府による規制など、社会的なルールがないことが要因」だと話す。規制がないから、作りたいものを作る。より格好良くするために、複合素材を駆使して理想のケースを作りあげる。それはビジネスとしてごく自然なあり方といえるが、時代に則しているとはいいがたい。
続けて、「私たちにはポリシーがあります」とワンはいう。
「多くの人が忘れがちなものに環境コストがあります。これは企業だけでなく、一般の人たちも負担するコストです。例えば、企業の経済活動の結果、適切に処理されなかったプラスチックごみが河川や海へ流れ、自然環境に影響を与えるプラスチック汚染も環境コストの代表例です。私たちは環境コストへの意識をもっと強く持つべきで、リサイクル率1%未満という状況を改善すべく対策を講じるべきだと思うのです」
規制がなく、各々の企業が自身のポリシーのもと事業を行うなか、ライノシールドは環境負荷への責任感から、見た目がシンプルとなる単一素材の製品作りを決めたのだ。
企業は社会問題を解決するために存在すべき
近年、欧米を中心に、企業の経済活動が環境活動に紐づく枠組み作りが進んでいる。日本も政府が2050年のカーボンニュートラルを宣言。社会が環境との共生にシフトしている一方、スマホケース業界では大量生産・大量消費のスタイルが継続されている。
対してライノシールドは、製品の“単一素材化”に加え、“廃棄物ゼロ”“100%循環リサイクル”の3つを、真のサステナビリティ実現のキーワードにしている。
しかし、これらは創業時から掲げていたものではない。事業に成功し、600人ほどのスタッフを抱えるまでに成長する過程で、ワンには大きな転機が訪れていた。
「もともと自分は好奇心に溢れているタイプの人間。いつも疑問を感じれば自分に問い、解決していくことにパッションを抱いていました。起業も、大学院時代に発見した素材に対して、『これは何の役に立つか?』と思案したのが原点。“ビジネスで成功したい!”という思いを実現したというより、問題解決をスケール化していくとビジネス的な成功につながったという感覚なのです」
いわば研究者のような日々を送っていたら、ビジネスパーソンとして成功したのだ。しかしワンは、そこで人生の意義を見失った。
「ある日、気づいたんです。スマホケースを作るために、私は博士号まで取ったのか、と。それは違うよね、と。以来、もっと広い視野で事業を見つめるようになりました。そこで到達した思いは、改めて“ビジネスとはバリューをスケール化するものだ”というもの。そして、会社は利益の追求より問題を解決するために存在すべきであり、事業は人類や社会に役立つために行うべきだと考えたのです」
リーダーにより明確な理念が生まれたことで、メンバーの意思統一も図られた。まもなく新しいチャレンジもスタート。それが“プラスチックのマネジメント”だ。
彼らのプラスチックに対する考えは、次の3要素で構成される。①過去のプラスチック:消費され、埋め立てられ、あるいは海洋に捨てられているプラスチック。②現在のプラスチック:今、流通、使用されているプラスチック。③未来のプラスチック:自然に生分解されるプラスチック。
そしてライノシールドは、最終的に二酸化炭素と水となって自然界へ循環していく未来のプラスチックで製品を作ることを決断。そのための新たなプロジェクト「サーキュラーブルー™」を立ち上げた。
人件費を抑えて海ごみを回収する「サーキュラーブルー™」
サーキュラーブルー™とは、端的にいえばライノシールドが作り出した“海のお掃除ロボット”だ。「自律型探索ドローン」「水面船」「母船プラットフォーム」の3つの連携システムで、シンプルながら効果的に海洋ごみを回収する。その仕組みは次の通り。
無人の探索ドローンが海面のごみをAI視覚システムで探して、GPSでその位置を特定し、水面船に信号を送る。水面船は探索ドローンの指定位置まで航行し、対象の海洋ごみを回収して母船プラットフォームまで運び、母船プラットフォームが水流ジェットでその海ごみを集める。海に浮遊する母船は太陽光発電で24時間稼働が可能。海岸線に流れ着くプラスチック廃棄物を、海岸線で効率よく除去するという画期的なシステムなのだ。
「海をきれいにしたい。その思いをかなえるのが難しいのは長期戦になるためで、それだけ人件費がかかるからです。しかし『サーキュラーブルー™』なら、最小限の人的リソースによる海ごみ回収が見込めます。また、母船の下部は清掃用にモジュール化されていますが、上部はカスタマイズが可能。アコモデーションにしたり、飲食や小売などの商業スペースとして収益を生み出し、運用コストに充てることができるのです」
慈善事業になりがちな海洋クリーンナップの持続可能性をビジネスで担保する。それがサーキュラーブルー™に備わる、もうひとつの特徴だ。
「現在はプロトタイプを台南エリアで稼働させ、コストを抑えながらごみ回収量を最大化するための実証実験をしています。稼働を本格化させた後は、東京や大阪をはじめ、世界中の海に浮かべて海ごみを回収していきたいですね。実は海ごみの60〜70%は川からの流入物で、残りの30%ほどは船が洋上へ出たときに発生するものだといわれます。だからまず前者を回収すれば、海ごみの大きな問題は解決できると考えています」
プラスチックを中心とする海ごみの回収後は、それらのリサイクルも視野に入れる。ゆくゆくはバージン・プラスチックの使用率を減らし、グリーンな“未来のプラスチック”自体を調達できる体制へ。そうしてプラスチックをマネジメントしていこうと、彼らは本気で考えている。

エリック・ワン◎1984年生まれ、台湾出身。「ライノシールド」創業者。2012年、英国のケンブリッジ大学院で材料学を学んでいたとき、実験に必要なプラスチック材料を自身で配合。結果、驚異的な振動吸収能力を持った素材を生み出したことがライノシールドの原点。2025年、海ごみ回収プラットフォーム「サーキュラーブルー」の初号機(プロトタイプ)を発表。年内の本格稼働を目指す。
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ライノシールド
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