「15%と聞いて、ああ、そうなのかと。慌てて事態が良くなるならいくらでもそうしますが、慌てても何も変わりませんから」
リョービ社長の浦上彰にインタビューしたのは、日米関税協議がアメリカの対日輸入関税率15%で妥結した7月23日の翌日。リョービは売上高2933億円(24年12月期)のうち海外売上比率57%のグローバル・ダイカストメーカー。関税率について感想を求めると、浦上は冷静にこう語った。
ダイカストは、溶かした非鉄金属を金型に高速・高圧で充填して成形する鋳造技術である。流し込むのはアルミニウムを中心とした合金。複雑な形状の部品を大量生産するのに向いており、例えばエンジンブロックやトランスミッションケースなどの自動車部品にも多用されている。
自動車メーカーを顧客にもつリョービにとって、トランプ関税の行方は他人事ではない。実際、浦上は「我々製造業にとって困るのは環境がころころ変わること。アメリカの通商政策が不安定なのはしんどい」と本音を明かす。
ただ、言葉とは裏腹に口ぶりは恬淡としている。やけに落ち着いて見えるのは、背景に同社のグローバル戦略があるからだろう。
「わが社の戦略は地産地消。アメリカで売るものはなるべくアメリカでつくるスタンスなので、ほかの輸出型企業に比べれば関税の影響を受けにくい。金型は日本から送るため関税の影響を受けますが、全体では大きな影響はありません」
アメリカでは現地の自動車メーカーも重要な顧客である。リョービは米国系メーカーがメキシコに生産拠点を移したのに合わせてメキシコにも工場をつくった。ならば対メキシコの関税率も気になるはずだ。
「米国系メーカーが苦境に陥るような関税率にはならないと期待しています。もし高い関税率が設定されたら、米国工場に生産をシフトすることも視野に入れています。どう転ぶのかわかりませんが、どうなっても対応のすべはあります」
浦上が環境の激変にも動じていないように見えるのは、複数のシナリオをシミュレーションして策を用意しているからなのだ。
事業を安定的なものにするため、できるかぎりの想定をして備える──。浦上がこうした経営スタイルを実践しているのは、リョービの過去と無関係ではない。
浦上は創業家3代目。大学では地質学を学んだ。「地球にとって1万年は一瞬」という時間軸を身につけたことも、慌てない性格につながっているのかもしれない。



