時価総額が4兆4000億ドル(約655.6兆円)に達するGPUチップの巨人エヌビディアは、AIブームを支える中核的存在だ。そして同社が脅威や不審な動きを監視する際に頼るのが、Grafana Labs(グラファナ・ラボ)だ。グラファナ・ラボはAIのオブザーバービリティ(=可観測性)プラットフォームとして、事業全体を俯瞰できるダッシュボードなどを提供しており、ウーバー、アンソロピック、アドビといった大手も同社の可観測性サービスを利用している。
こうした大手企業による採用を背景に、グラファナの評価額は60億ドル(約8940億円)とされる。同社は9月30日、年間換算収益が4億ドル(約596億円。1ドル=149円換算)に達したと発表した。CEOのラージ・ダットはフォーブスに対し、売上増加の一因は「グラファナ・クラウド」の成長にあると説明した。このサービスは、サーバーやストレージなど自前のインフラを持たない企業向けに提供されている。
生成AI時代に広がる「バイブコーディング」需要
AIの普及により、優れたオブザーバービリティ・プラットフォームの需要は急増している。特に生成AIによる「バイブコーディング」の広がりが、この傾向を一層加速させている。「AIがコードを書き、製品を作るようになったことで、裏側で何がいつ、誰によって行われているのかを把握するのが難しくなっている」とダットは指摘する。
「現在のソフトウェアは、生き物のようになりつつある。これまで以上のスピードで作られ、リリースされているが、その中身は雑なこともある。だからこそ、本番環境でアプリがどう動いているかを理解することが極めて重要になる」と彼は述べている。
224億円規模の株式公開買付、著名投資家が参加
グラファナはまた、最大1億5000万ドル(約224億円)の自社株の公開買付の完了を発表した。これは、新規や既存の投資家が、同社の従業員や初期投資家が保有する株式を購入するための取引だ。今回の公開買付はオンタリオ州教職員年金基金が主導し、Sapphire Venturesとタイガー・グローバルが参加した。ライトスピード・ベンチャーパートナーズ、セコイア、そしてグーグル親会社アルファベットの成長投資部門CapitalGも加わった。なお、新たな評価額は公表されていない。
CapitalGのパートナーであるモー・ジョマーは、グラファナが魅力的な投資先である理由について「オブザーバービリティは、あらゆる企業の最高情報責任者(CIO)にとって最もミッションクリティカルな支出だからだ」と語った。CIOは自社の製品がどう稼働しているか、そして致命的な障害をどう回避できるかを常に見ているという。「これらの仕組みが止まれば、ビジネス全体が止まってしまう」とジョマーはフォーブスに語った。
AIアシスタントの発表とセキュリティ課題
グラファナは来月、ユーザーが言語モデルとチャットしながら、不具合を調べたり、ダッシュボードを構築したり、オンボーディングを支援したりできるAIアシスタントをリリースする予定だ。一方で、同社は課題にも直面してきた。
7月には、サイバーセキュリティ研究者が同社のソフトに脆弱性を発見した。これは、攻撃者がユーザーを悪意あるウェブサイトにリダイレクトできる可能性がある脆弱性で、これを受けてグラファナは問題を修正するセキュリティパッチを配布した。「こうした問題は当社の、バグバウンティプログラムを通じて責任を持って報告され、速やかに選別・修正され、当社の協調的開示ポリシーに基づいてリリースされた」と、同社の最高情報セキュリティ責任者(CISO)のジョー・マクマナスはフォーブスに宛てた声明で語った。
2014年創業、NASAやツール・ド・フランスも活用
グラファナは2014年、エンジニアのダットとトーケル・エーデゴード、アンソニー・ウッズの3人によって共同創業された。同社の取り組みは、データがどこに保存されていても、ユーザーがそれを監視・可視化できるようにするオープンソースプロジェクトとして始まった。プロジェクトが人気を集める中で3人は会社を立ち上げ、現在もバックエンドログの蓄積や集約を可能にするオープンソースツールを提供し続けている。
シリコンバレーの外でも、グラファナは実績を重ねている。NASAは打ち上げの追跡に同社のツールを利用し、ツール・ド・フランスもリアルタイムのレースデータ表示に利用してきた。今年、同社はフォーブスが未上場のクラウド関連のトップ企業100社を選ぶ「クラウド100」で13位にランクインし、前年から10位順位を上げた。
ダットは、AIによってテクノロジー業界の加速が続くなかで、システムパフォーマンスをより綿密に監視する必要性がさらに高まると強調する。「その重要性はいま、かつてないほど高まっている」と彼は語った。



