マイクロソフトと1.5兆円規模の大型契約を結ぶも、借入が拡大するというスパイラル
CoreWeaveは大型契約を獲得するたびに、それを履行するため多くの借金を背負ってきた。2023年には、2030年までにCoreWeaveのクラウドサービスに100億ドル(約1.5兆円)を投じると報じられた契約をマイクロソフトと結んだ。この契約を受け、ブラックストーンは2023年に23億ドル(約3380億円)の融資を主導し、翌2024年には75億ドル(約1.1兆円)の追加資金提供を主導した。「我々が評価するのは特定のストーリーではなく、契約とキャパシティ、電力だ」とブラックストーンのシニア・マネージング・ディレクター、ジャス・カイラは語る。同社は、その後のデューデリジェンスによってCoreWeaveが結んだ契約が抜け目なく整備され、マイクロソフトのような顧客が容易に手を引けないことを確認したという。
マンハッタン中心部から北へ車で40分ほどのニューヨーク州オレンジバーグにあるCoreWeaveのデータセンターでは、ひんやりとした照明の下で、病院の点滴バッグのようなものが黒いラックにずらりと並んでいる。そこから滴下される緑色に光る冷却液がGPUを満載したサーバーを冷やし、安全な稼働温度を保つことで、CoreWeaveが巨額を投じた設備を休みなく動かしている。
こうしたサーバーがどれだけの収益をもたらすかは、AIの計算需要が供給をどれだけ長く上回り続けるか、そしてAI企業がどれだけ早く追いつけるかにかかっている。たとえばマイクロソフトは、2025年6月期までの1年間で880億ドル(約12.9兆円)を設備投資に費やしたが、その大半はAIインフラ向けだった。OpenAIも最近、オラクルと3000億ドル(約44.1兆円)規模の契約を結んだと報じられており、トランプ大統領が支持する「スターゲート」構想の一環として計算資源を確保しようとしている。これはOpenAIがCoreWeaveと結んでいる契約の先行きに疑問符を投げかけるものだ。
また、CoreWeaveは、ハイパースケーラー大手以外にも、Crusoe(クルーソー)、Nebius(ネビウス)、Lambda(ラムダ)といったクラウドの競合とも戦わなければならない。これらの企業の多くはCoreWeaveの大手顧客とも契約を結んでおり、顧客側は特定のクラウドに依存しすぎないよう複数のサービスを使い分けている。「契約更新や顧客維持にはリスクがある」とマッコーリーのアナリスト、ポール・ゴールディングは指摘する。
借入は2年以内に4.4兆円に膨張か
問題は借金だ。CoreWeaveはGPUを担保にした借入をやめるつもりはなく、JPモルガンの試算では、同社の負債は2年以内に300億ドル(約4.4兆円)に膨らむ可能性がある。加えて、業界が急速に動く中で2023年以降の累計損失は21億ドル(約3090億円)に達しており、一部のアナリストはそのリスクを懸念している。
しかしイントレーターは、そうした警告を意に介さない。「そうだ、私は金を借りてるんだ」と彼はマンハッタンの本社へ向かう車中で、ウォール街の批判者たちに反発するように語る。マクビーも「リスクなんてない」と断言する。
彼らの説明によれば、平均契約期間が4年のCoreWeaveの契約は、GPUの調達やデータセンターの建設、利払いに加え、減価償却や保守までの費用の大半を織り込んでいる。そのため計画通りにいけば、彼らは利益に加えてGPUそのものの資産価値も確保できる。CoreWeaveの契約は一般的に、「1ドルの借金返済に対して約2ドルの収益を生む」ように設計されているとマクビーは言う。ただしリスクは明白だ。もしAIブームがバブルに終わり崩壊すれば、契約は履行されず、CoreWeaveは大量の遊休サーバーと巨額の借金だけを抱えることになる。
シティのアナリスト、タイラー・ラドケはCoreWeaveが早ければ来年にも黒字化する可能性があると予測する。同社の現在の赤字は、利払いの負担と、巨額の先行投資が必要なインフラ構築コストによるものだ。「我々はこの分野の誰よりも洗練された方法でリスクを考えている」とイントレーターは語る。
もっとも、多くの格付け機関はCoreWeaveの最新の社債をジャンク(投機的水準)に分類している。たとえブームが続いても、同社が約束通りのペースで設備を整備できなければ、一気に暗転する恐れがある。
規制リスクと地域社会からの反発
ここには「既知の未知」ともいえるリスクがある。規制上の障害や製造上の不具合、そして地域住民の反発だ。データセンター関連のニュースサイト「Data Center Watch」によれば、抗議活動のみで640億ドル(約9.4兆円)相当のデータセンター計画が中止または遅延しているという。CoreWeaveも、ペンシルベニア州ランカスターに建設中の60億ドル(約8820億円)規模の新施設をめぐる反対運動に直面している。この施設は完成すれば「地域の全世帯の4倍の電力を消費する」と地元住民のエマ・バージェスは指摘する。
環境を重視するアーミッシュのコミュニティを持つ地域住民たちは市議会に押しかけて、「地域の声が反映されていない」「電力の消費が多すぎる」「大気汚染や騒音がひどくなる」といった懸念の声を上げた。CoreWeaveのマクビーは「現場で反発は起きていない」と主張するが、「何らかのダメージを与えることにはなる」とも認める。
「AIデータセンターは、365日24時間稼働し続ける必要があるため、風力や太陽光のように出力が不安定な電源には頼れない。当面は天然ガス火力発電で電力を賄う方針だ」とマクビーは語る。
CoreWeaveは5月にはAIソフト開発企業Weights & Biasesを10億ドル(約1470億円)で買収し、顧客基盤の多様化を図った。1.5GW相当の電力契約を追加できるとされるデータセンター運営会社Core Scientificの90億ドル(約1.3兆円)での買収計画も進めている。この計画は、規制当局と株主の承認が得られれば、同社の稼働電力を4倍以上に拡大する見込みだ。CoreWeaveの次の一手は、資金とGPUへのアクセスを組み合わせたAIスタートアップへの投資だという。
しかし、状況は極めて不安定だ。CoreWeaveの時価総額は、波乱含みだった3月のIPO後に700億ドル(約10兆円)規模で乱高下した。また、関税の影響も利益を揺さぶりかねない。最大の顧客は、CoreWeaveの事業領域に迫る競合と巨額契約を結んだばかりだ。資本や設備の調達の遅れも、同社の先行優位を失わせる恐れがある。
「AIブームは崩壊しない」という賭け
それでもイントレーターは動じない。「GPUを担保にした負債は必ず報われ、AI向けの計算需要の急拡大に合わせて会社を成長させ続けられる」と確信しているからだ。つまり、市場が伸びればCoreWeaveも伸びる。同社が創業からわずか6年で時価総額667億ドル(約9.8兆円)となれたのは、先見的な賭けの成果にほかならない。とはいえ、同社の命運はいまも「AIブームは崩壊しない」という賭けに勝てるかどうかにかかっている。


