暗号資産事業からAIクラウド事業への転換
イントレーターが「数字を駆使する才能」を最初に発揮したのは、ニューヨークを拠点とするカーボン排出権の取引会社Natsource(ナットソース)に在籍していた時だった。同社は排出権取引や温室効果ガス資産を扱っており、彼は1998年から2014年まで勤務し、エンロン事件を含む激動期を経て、環境汚染を金融商品に変える方法を学んだ。この発想を彼はのちにGPUのビジネスにも応用することになる。
退社後、彼が最初に挑戦した天然ガスのヘッジフアンドは失敗に終わったが、イントレーターは共同創業者たちと2017年に暗号資産マイニング企業アトランティック・クリプトを設立し、イーサリアムの採掘に乗り出した。「あの会社はクレジットカードで立ち上げたんだ。GPUを2つか3つ買ってみようとね。『とにかくやってみよう』って感じだった」とイントレーターは振り返る。
倒産マイナーからGPUを買い集めて生き残り
2018年に暗号資産市場が周期的な暴落を迎えると、共同創業者たちは倒産したマイナーから数千基のGPUを二束三文で買い集め、推定8000万ドル(約118億円)をマイニングで稼ぎ出した。「イーサリアムのおかげで彼らは生き残り、AI分野に移行するための時間を稼げた」と、同社の初期投資家のニック・カーターは語る。
イントレーターはその後、不安定な暗号資産そのものではなく、それを採掘する機器こそがより大きな利益を生むと見抜いた。彼らのサーバーは3D画像やアニメーションのレンダリング、初期のAI研究を含む幅広い用途に対応できた。 2019年、マイニング用の性能の低いGPUをデータセンター向けの高性能チップに等価交換で入れ替えた。「今振り返れば、あれは天才的な判断だった」とヴェントゥーロは言う。
エヌビディアのA100チップをまとめて購入、96基のGPUクラスターを構築
AI分野への最初の足がかりは、2021年末にワシントンD.C.拠点の非営利研究団体Eleuther AIとのプロジェクトだった。CoreWeaveは200万ドル(約2億9400万円)を投じてエヌビディアのA100チップをまとめて購入し、同団体のために96基のGPUクラスターを構築した。当時Eleutherは強力なオープンソースの大規模言語モデルを訓練していたが、システムはバグやネットワーク障害、ストレージの問題に悩まされており、外付けストレージを使ってデータを手作業で移し、クラッシュを防いだこともあったという。「あの仕事を通じて、AI向けのインフラ構築を学べた」とイントレーターは振り返る。
CoreWeave初の「GPUを担保にした借り入れ」
そしてこの経験が、CoreWeaveを初めて大口顧客と結びつける転機となった。同社はEleutherを通じて、テキストから画像を生成するAI「Stable Diffusion」で注目を集めたStability AIとつながったのだ。その瞬間、ヴェントゥーロは巨大なビジネスチャンスの輪郭を初めて見た。ただしそのチャンスをものにするには、エヌビディアのチップへの投資を強化する必要があった。「この投資は、会社にとって最も重要な決断になると思った」と彼は語る。
大量のGPUを買い込むために、CoreWeaveは巨額の現金を必要としていた。そのため同社は、2022年末にイリノイ州エバンストンに拠点を置く資産運用会社マグネター・キャピタルから、1億ドル(約147億円)の出資を取り付けて、数千基のエヌビディア製H100チップを購入。AI向けに大規模な計算能力を提供できる体制を整えた。両社は後に23億ドル(約3380億円)の資金調達を共同主導し、CoreWeave初の「GPUを担保にした借り入れ」を実現させた。
イントレーターの天才的手腕は、「購入したばかりのチップを担保に資金を引き出す」というスキームをマグネターに受け入れさせた点にある。「彼らはGPU市場におけるデットファイナンス(借入金融)の基盤をつくった」と、CoreWeaveのクラウドコンピューティング分野のライバル企業TensorWaveのCEO、ダリック・ホートンは語る。
当時世界最大級、2万2000基のGPUを使ったAIクラスターを構築
このスキームは、前例のないリスクの高いものではあったが、2022年11月にChatGPTがAIを一般に広めたことで、この賭けは大きな成果につながった。2023年1月、CoreWeaveはAIスタートアップのInflection(インフレクション)と3億ドル(約441億円)の契約を結び、当時世界最大級となる2万2000基のGPUを使ったAIクラスターを構築した。「私たちは、売るものがゼロの状態から、在庫を5倍超えて売り切るまでになった」とヴェントゥーロは振り返る。
NVIDIAとの戦略的提携と急成長
2022年12月には、大量のGPUを買い込む無名企業のCoreWeaveにエヌビディアの経営陣が興味を持つようになった。創業者たちは、ある日突然の電話で、エヌビディアのCEOジェンスン・フアン本人から「話がしたい」と告げられ、その20分後にはZoomのビデオ会議で、世界最大の半導体メーカーの創業者に対して、自社への投資を売り込んでいた。
エヌビディアが515億円出資、株式5%取得
フアンCEOは、CoreWeaveが同社の複雑なチップを効率的に運用できる将来の顧客を育成し、「AI市場における自社の支配力を高めるための機会を見いだした」とイントレーターは語る。エヌビディアはCoreWeaveに3億5000万ドル(約515億円)を出資し、現在では25億ドル(約3680億円)に相当する5%の株式を取得した。同社は、CoreWeaveにパートナーネットワークの「エリート」資格を与え、最新鋭チップの供給で優先権を得られるようにした(エヌビディアは本稿へのコメントを控えた)。
両者の関係は極めて密接だ(イントレーターは「共生的」と呼ぶ)。エヌビディアは、CoreWeaveにとって製品の供給元であり、投資家であり、顧客でもある。同社はCoreWeaveのインフラに少なくとも3億2000万ドル(約470億円)を支払い、2032年までに余剰の計算能力を買い取る契約も結んでいる。ただし彼らは決して対等ではない。エヌビディアは、今年1月までの2025会計年度に1305億ドル(約19.2兆円)の売上高に対し729億ドル(約10.7兆円)の利益を計上しており、時価総額は4.3兆ドル(約632.1兆円)を超える。D.A.デビッドソンのルリアは率直に語る。「エヌビディアが望まなければCoreWeaveは存在しないだろう」。


