そもそも、それが最初から狙いだったのかもしれない。ストーンとエリクソンによると、ニクソンと彼のアドバイザーたちは金本位制によって米国のパワーが制約されているとの認識から、ドルと金の結びつきを断ち切ればソビエト連邦を上回る支出をし、世界と「すべての人を支配」できると信じていた。
それからおよそ55年後、米国の政府債務は37兆5000億ドル(約5500兆円)という途方もない額になっている。国内総生産(GDP)に対する比率は約124%に達する。国際金融協会(IIF)によると、世界全体でも債務は338兆ドル(約4京9600兆円)に膨れ上がっており、GDP比は324%を超える。比較のために言うと、ニクソンが「金への窓」を閉めた当時、米国の政府債務は約4000億ドル、GDP比は40%足らずだった。
要するに、米国はわずか50年あまりで、規律のある財政システムから放漫な財政システムへ堕落してしまったのだ。
有限な「実物貨幣」としての金
筆者はもう何十年も、暴走する債務と誤った金融財政政策に対する“究極のヘッジ(資産防衛手段)”は金だと言い続けてきた。2020年にCNBCアジアの番組に出演した時には、金価格は1トロイオンス4000ドルまで上がると予測していたが、いまではそれに手が届くところまで来ている。金は足元で3800ドルを超える水準で取引されており、トレーダーはFRBによる複数回の利下げを織り込んでいる。
また、世界各国・地域の中央銀行は競うようにして金地金を準備資産として積み増している。国際業界団体のワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、世界の中銀は今年1〜7月に正味200トンを購入した。ただ、前年同期からは4%ほどの増加にとどまる。中銀総裁たちは、不換紙幣は望めばいくらでも刷れても、実物貨幣としての金は有限だということを理解している。
裏を返せば、そうした有限性に担保される価値があるからこそ、金はいまでは世界でドルに次ぐ第2の準備資産になっているのだろう。しかもドルと違って、金にはカウンターパーティーリスク(取引相手の破綻リスク)が存在しない。


