真夏の、うとうとするような日曜日のことだった。多くの米国人が自宅のテレビで西部劇ドラマ『ボナンザ』を見ていると、画面が突然切り替わり、リチャード・ニクソン大統領が映し出された。ニクソンは、米ドルと金(ゴールド)の兌換を禁止するといきなり宣言した。
のちに「ニクソン・ショック」と呼ばれることになる出来事は当時、国際通貨体制のたんなる調整のように見えたかもしれない。
だが実際には、米国はこの日を境に財政規律をかなぐり捨て、変動相場制へと向かったのだった。
1971年以前、流通するすべてのドルは有形の実物に裏づけられていた。35ドルを持っていけば1トロイオンスの金と交換できたのだ。1971年以降は「印刷された紙幣そのものに何の価値もなくなった。それは人工的なものであり、人工的なものはすべて仮のものにすぎない」。
最後の一文は最近出た書籍『1971: How All of America’s Problems Can Be Traced to a Singular Day in History(仮訳:1971年──アメリカのあらゆる問題の発端になった一日)』からの引用だ。読者にもぜひ手に取っていただきたい一冊だ。著者のポール・ストーンとデイブ・エリクソンはそのなかで、ドルと金の結びつきがほどかれたことが米国のインフレや債務膨張の根本原因であり、さらには「歯止めのかからない道徳的退廃、人種差別、薬物蔓延、家庭の崩壊、戦争、飢餓」などの淵源でもあると論じている。
金との切り離しでタガが外れた米国財政
ストーンとエリクソンの結論には納得できない点があるという人もいるだろう。それでも、ひとつの点については誰もが同意するはずだ。ドルが金から切り離されるや、政府は節度なく支出をするようになったということだ。政治家たちはもはや厄介な選択をせずに済むようになった。支出を減らす、あるいは増税する代わりに、そのまま財政赤字を出し、不足分は連邦準備制度理事会(FRB)に穴埋めしてもらえばよくなったからだ(詳しい経緯については以前に筆者が作成した年表を参照してほしい)。



