愛称は「PTA」、名前の頭文字から、こう呼ばれているポール・トーマス・アンダーソン(Paul Thomas Anderson)。いまハリウッドの実力派俳優たちがこぞって作品への出演を熱望する映画監督の1人だ。
彼の最新作である「ワン・バトル・アフター・アナザー」で主要登場人物を演じた3人の俳優も次のように語る。
「私をこの企画に最も引きつけたのはポール・トーマス・アンダーソンだ。彼とこの映画をつくることはとても特別なことだ。私はもう20年以上も彼と仕事をしたいと思ってきた。そしていま、この題材で映画をつくることができるのは、私にとって大きな意味を持っている」(レオナルド・ディカプリオ)
「この脚本は贈り物のように私のもとに届いた。ポールは特別な映画監督であり脚本家で、長年の友人でもある。これまで一緒に仕事をしたいと何度も話してきて、『リコリス・ピザ』でも少し関わった。だから1ページ目を読む前から、これはぜひやりたいと思えるものだろうと期待していた」(ショーン・ペン)
そして、作中では特異な存在感を放っているベニチオ・デル・トロも「この企画に惹かれた理由」について次のように言い切っている。
「三文字だ。P・T・A。ポール・トーマス・アンダーソンから電話があって、こう言われた。『脚本があって、君に演じてほしい役がある』と。読む前からすでに引き受ける気持ちだった。ただそれだけだ」
この3人の名優が1つの作品のなかで共演するというのは、それだけでも素晴らしいことなのだが、彼らが出演した理由が、いずれも「監督のポール・トーマス・アンダーソン」だというのはとても興味深い。
世界三大映画祭を制した稀有な監督
ポール・トーマス・アンダーソンは1970年、アメリカ・ロサンゼルスの生まれ。当年、55歳だが、すでに世界三大映画祭と言われるカンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭、ヴェネツィア国際映画祭で、いずれも監督賞を受賞している。
12歳でビデオカメラを手にして映画監督になることを運命づけられ、1993年、脚本も担当した長編映画監督2作目の「ブギーナイツ」でアカデミー賞脚本賞にノミネート、20代前半で早くも頭角を現す。
トム・クルーズなどを起用した「マグノリア」(1999年)で第50回ベルリン国際映画祭の最高賞である金熊賞を受賞、世界的な評価も勝ち得る。監督4作目の「パンチドランク・ラブ」(2002年)では、カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞する。
その後、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(2007年)はベルリン国際映画祭で、6作目の「ザ・マスター」(2012年)ではヴェネツィア国際映画祭で、どちらも監督賞に輝き、わずか監督作品6作で世界三大映画祭を制した稀有な映画監督となる。
しかし米アカデミー賞では作品を発表するたびにノミネートはされるが受賞には至ってはおらず、むしろ全米各地の映画批評家協会賞で軒並み受賞の栄誉に浴している。言わば「通好み」の作品を送り出してきたわけだが、そのあたりは実力派俳優たちが出演を望む理由となっているかもしれない。



