ただのカーアクション作品ではない
ポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作「ワン・バトル・アフター・アナザー」は、冒頭から派手な爆破シーンや、中盤のセンセイに導かれての逃走劇、そして終盤のカーチェイスの場面へと次々とアクションシーンが続いていく。
これまでは考え尽くされた映像美を駆使しながら、登場人物の深層をきめ細やかに描いた作品が多かったPTA監督だが、今回のようなアクションシーンをたっぷり盛り込んだ作品はかなり趣が異なる。しかも従来のPTAの作品ではあまり色濃くなかったエンタテイメント性もしっかり兼ね備えている。
作品を構想するきっかけとして、監督自身も「私は20年前にこの物語に取り組み始めた。当初の目的は、カーアクション映画を書きたいというものだった」と語っている。それと同時期にトマス・ピンチョンの小説「ヴァインランド」を基にして脚色しようと思いついたという。
そして最後に女性の革命家を登場させるというアイデアが頭のなかに浮かぶ。「私は20年にわたってこれらの異なる糸を引っ張り続けてきて、結局そのどれもが私のなかから消えることはなかった」と監督自身も語るように、最終的にはただのカーアクションの映画ではないという着地点に至ったのだった。
監督が当初の段階で意図したというカーアクションも、もちろん作中では華々しく繰り広げられている。丘陵地帯の起伏の激しい道路の特性を活かしたカーチェイスは、さすが映像巧者のPTAらしく独創性にあふれるものとなっており、その決着のアイデアには思わず唸らされた。
そのほか、ベニチオ・デル・トロ扮するセンセイが、追撃される主人公ボブを先導していく脱出シーンも、シチュエーションを活かしてスリリングに描かれている。そして、それらのアクションをさらに味わい深いものとしているのが、随所に登場するブラックなユーモアだ。
娘ウェラ救出の頼みの綱でもある、かつて自分が所属していた組織に連絡する際、主人公のボブは秘密の合言葉を忘れてしまっていたため、協力をなかなか得られないというくだりは、ディカプリオのコミカルな名演とも相まって、アクションシーンに絶妙のリズムを醸し出している。
前述したように、ただのカーアクション映画ではないことは、登場人物の内面を掘り下げたキャラクターの描き方や、移民問題なども取り入れたストーリーづくりを見れば明らかだ。
革命家としてボブたちが行動を起こすのはメキシコからの移民の収容施設の解放であったり、敵役のロックジョー警視が直面する複雑な立ち位置であったり、物語の奥行きには浅からぬメッセージ性も込められている。
アクションも楽しめるが、父と娘の絆や家族の在り方など、それだけではない心に突き刺さるテーマも物語には包含されている。そのあたりがやはりPTA監督のPTA的たる所以なのかもしれない。


