ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・C・エドモンドソン教授とマイケラ・J・ケリシー准教授が、「ハーバード・ビジネス・レビュー」5・6月号に「What People Get Wrong About Psychological Safety(心理的安全性について人々が誤解していること)」という明快な記事を寄稿した。
心理的安全性を高めようとしたこれまでの大規模な取り組みは、ほとんど効果がなかった
「心理的安全性」はかつて、心理学や経営学の研究分野ではあまり知られていない用語だった。エドモンドソン教授は、2017年のベストセラー『恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』(邦訳:英治出版)で、この状況を一変させた。
冒頭で紹介したハーバード・ビジネス・レビューの記事によれば、「今日、この概念は紛れもなく人気を博している。無数の経営者、コンサルタント、研修会社が、心理的安全性の高い職場づくりに尽力しており、このテーマに捧げられた記事は数千に及ぶ」
この本が出版された2017年には、この取り組みの必要性は明らかだった。「2017年のGallup(ギャラップ)調査によれば、職場で自分の意見が重視されていると強く感じている従業員は、10人中わずか3人だった」のだ。
ところが、8年が経過した今でも、ギャラップの数字はほとんど変わっていない。何が間違っていたのだろうか?
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によれば、「心理的安全性の認知度が高まるにつれて、それに対する誤解も増えている」という。
著者たちは、6つの一般的な誤解を挙げている。具体的には、「心理的安全性とは、親切であることだ」「自分の思い通りになることだ」「雇用の安定を意味する」「業績とのトレードオフが必要だ」「一つのポリシーである」「トップダウン型のアプローチが求められる」の6つだ。著者はその上で、それぞれの誤解が障害となる理由を説明し、対策を提案している。
重要な問題は、「問題は何か?」だ
この大規模な取り組みが解決しようとしている問題とは、何だろうか? アルバート・アインシュタインの言葉とされる(信頼性は低いが)有益な洞察は、基本を見直すことだ。アインシュタインは、こう言ったとされている。「問題解決のために1時間を与えられたら、私は最初の55分は問題を定義することに使い、最後の5分を解決に使うだろう」。現在の心理的安全性への取り組みは、その逆のことをしているのかもしれない。
心理的安全性の向上が進まない状況をより深く見てみると、もう一つの原因が見えてくる。それは取り組みが企業内のチームレベルで、集中的に行われていることだ。エドモンドソン教授が2017年の著書で述べたように、「私の実地調査は、主にグループやチームを対象としている。なぜなら、ほとんどの仕事はそうした単位で行われるためだ」
同様に2025年の記事も、リーダーがチームレベルで心理的安全性を高める取り組みにほぼ終始している。チームは確かに、多くの仕事が遂行される場所だが、必ずしも問題の大半が発生する場所ではない。



