忘れ去られた古代ローマのスーパーフード
古代ローマ料理で特に興味を引かれるものに「ガルム」がある。魚を発酵させたいわゆる「魚醤」で、現代人でいう醤油やケチャップのような存在だった。
ガルムの製法は、あまり食欲をそそるようなものではない。素焼きのつぼに、魚の内蔵と塩を交互に入れて重ね、それを天日干しして発酵させると、驚くほど豊かな風味のガルムができる。うまみにあふれ、栄養価も高く、とりわけアミノ酸、カルシウム、オメガ3を多く含んでいる。
今どきの味覚にはあまり合わないと思うかもしれないが、ガルムには、現代の健康的な発酵食品である紅茶キノコ(コンブチャ)やキムチ、味噌などと多くの共通点がある。生物学的な観点から見ると、発酵させることで有益な細菌が取り込まれ、たんぱく質があらかじめ分解されることで、体内に吸収・利用されやすくなる。こうした微生物の働きは、人間の消化機能と免疫の健康に欠かせないものだという認識が広まりつつある。
意外にも、肉をあまり食べなかった古代ローマ人
ハリウッド映画でどのように描かれようと、古代ローマ人の大半は、イノシシの丸焼きといった、次々と運ばれてくる肉料理に舌鼓を打っていたわけではない。肉を口にするのはごくまれで、貧しい人や労働者階級ならなおさらだった。
それに、肉料理が供されたとしても、たいていは豚肉で、それにヤギ、仔羊、鶏肉が続いた。牛は、農作業で重宝されていたこともあり、牛肉が古代ローマ人の食卓にのぼることはほとんどなかった。
そして、この肉食こそが、古代ローマ人と現代に暮らす西洋人の食生活の大きな違いだ。現代では肉料理が中心となっている。ただ、進化の観点から見ると、肉をあまり食べない古代ローマ人の食生活の方が有利だといえるだろう。
人間は雑食で、いろいろなものを食べられる。しかし、腸が比較的長いことや、食物繊維を腸内細菌で発酵させなくてはならないことなどが示唆するように、人間の生理機能は、植物を多く含んだ食事に合っている。
赤身肉や加工肉を、見境なくしょっちゅう摂取することは、大腸がんや心疾患のリスク上昇につながることがわかっている。肉をたまにしか口にせず、植物中心の食事を取っていた古代ローマ人の方が、生物としての人間に最も適していると見られる食生活を送っていたのだ。
飢餓と飽食のサイクル
一つ認識すべきは、古代ローマ人の食生活を形作っていたのは文化だけではないことだ。食料が入手しやすいかどうかや、それぞれの季節も、食生活に大きな影響を与えた。当時の食品保存技術はまだ原始的だった。人々は主に旬の食材だけを食べ、食料が手に入りにくい時期には空腹を耐え忍ぶことも多かった。
そうした断続的な食料不足は、現代で言うところの、マイルドな「インターミッテント・ファスティング(断続的断食)」につながっていたのかもしれない。古代ローマ時代に暮らしていた人たちの食生活は、断続的断食という流行りのバイオハックが今、大きな注目を浴びている理由と関係している。
私たちの体はもともと、飽食と飢餓という、避けがたい自然のサイクルに従って進化してきた。食料が豊富な現代においてさえ、時間的な制限を設けた食生活は、健全な代謝を助け、炎症を抑制し、細胞の修復プロセスを促し得ることがエビデンスで示唆されているのは、まったく不思議ではないのだ。
要するに、食料不足に対する回復力を古代ローマ人が持てるようにした生体システムは、現代人の多くが意図的に断食の時間を設けて試みる「再活性化」と同じなのだ。


