動物界の奇妙な食性が話題になると、必ず頭に思い浮かぶ動物がいくつかいる。ユーカリ以外のエサをほとんど食べないコアラや、動物でも人間でもほぼ間違いなく逃げ出しそうな腐肉を糧にするハゲワシなどだ。けれども、奇妙な食癖をもつ動物についてあれこれ言う前に、私たち人間は自らを振り返るべきかもしれない。
プラスチックの袋を破って、そこに入っている食べ物を口にするのは人間だけだ。しかも、作られたのはずっと前で、発音することすら難しい添加物も入っている。はるか遠くの工場で製造された食品を電子レンジで温めて食べたり、本物の果物など少しも入っていない、人工的に作られた「イチゴ味」の飲み物を口にしたりもする。
進化生物学の研究者として、筆者はしばしばこう問いかける(問いかけられる時もある)。「私たちは生物として、こういう食べ物を摂取するようにできているのだろうか?」。
人間の体が何を食べるよう作られてきたのかを理解するといっても、人類誕生までさかのぼる必要はない。実のところ、人類史のもっと新しい時代を振り返るだけで、多くを理解できる可能性がある。その時代とは、今からおよそ1900年前、西暦100年頃に最盛期を迎えた古代ローマだ。
以下では、古代ローマ人がどんなものを食べていたのか、そして、当時の食習慣のうち、なぜ21世紀の現代によみがえらせるべきものがあるのか、探っていこう。
古代ローマ人の主食は驚くほど簡素だった
古代ローマのインスラ(一般市民が住む高層集合住宅)では、あるいは田舎の別荘ですら、夜の食卓に日々、凝ったごちそうが並ぶわけでなかった。古代ローマの普通の労働者が食べていたのは、全粒粉や豆類、野菜、オリーブ油がたっぷりと含まれた食事、つまり、現代で言う地中海式ダイエットの原型と呼べるものだった。
古代ローマの基本的な食事は、エンマー小麦(古代小麦の一種)や大麦を使った、とろみの強いお粥「プルス」だ。栄養価を高めるために、レンズマメやソラマメを加えたり、オリーブ油やハーブで味をつけたりすることもあった。また、粗挽き小麦のパン(多くは天然酵母のもの)も供された。
現代人は、穀物から食物繊維と微量栄養素を削ぎ落し、精製されたでんぷんにして摂取している。これに対して、古代ローマでは全粒粉が一般的だった。全粒粉には、腸内細菌を増やし、健康を改善し、免疫システムを活性化するだけでなく、気分を高揚させるという重要な利点がある。
あえて言うなら、古代ローマ人の食生活は実用的だったばかりか、生物学的に見て洗練されていたのだ。



