自動運転のEVバス、水素燃料電池船といった次世代のモビリティが体験できる大阪・関西万博。そんな万博で、先月、磁力で動くエレベーターの展示が行われた。
万博会場の「大屋根リング」から北西に10分ほど歩くと、「フューチャーライフヴィレッジ」という、数多くの企業や団体が近未来に向けた思考や技術を紹介している施設がある。
この一角に、9月7日から10月2日まで「リニアモーター」形式のエレベーターの小型デモ機が展示された。開発しているのはエレベーターの製造大手である「フジテック」で30年以上勤務し、現在はスタートアップ企業「リニアリティー」(京都市左京区)代表を務めるマルコン・シャンドルだ。
リニア形式開発のきっかけ
通常のエレベーターでは人が乗り込む「カゴ」はロープで吊り下げられており、そのロープをモーターで巻き取って駆動する。ところがマルコンらが開発したリニアモーター形式は、ロープを使わずに磁力でカゴを動かすのだという。
仕組みはこうだ。建物側には銅線を何重にも巻いた「コイル」を内蔵した板状の金属部品が固定され、動くカゴ側には2つの永久磁石が付いている。コイルが永久磁石を左右から挟む構造になっていて、これが「リニアモーター」の動力の心臓部と言える。
「コイル」は電気を流すと「電磁石」となり磁力を発生。そして下部のコイルから徐々に電流のプラスとマイナスを逆にしていくと、電磁石のS極とN極もこれに合わせて入れ替わる。「違う極同士だとくっつき、同じ極同士だと反発する」という磁石の原理で、永久磁石とそれにつながるカゴが上昇していくのだ。鉄道のリニアモーターカーが前に進むのと同じ原理だ。
なぜこれを開発しようと考えたのかを万博の会場でマルコンに聞くと、思いがけない答えが返ってきた。
2007年1月、建築家の高松伸が大阪の統合型リゾートIR構想に向けて、「リングダム」という巨大なリング形の建物の完成予想図を発表。高松はフジテックを訪れると、マルコンらにこの建物で使えるエレベーターをつくってほしいと話したという。
というのは、リング形の建物では垂直にしか動かせないロープ型のエレベーターは役に立たない。全く異なる駆動方法が必要となる。そこで着目したのが水平や斜めに移動できるリニアモーター形式であった。
リング形どころか、らせん状の建物でも、自在に移動できる。逆にいうと、実は地上から最上階までつながる縦長の直線空間(エレベーターシャフト)の存在が、この世界にある全ての高層の建物を直方体にしてきた原因だったのだ。
さらに言うと、超高層ビルだと10台以上のエレベーターが備わるので、そのためのスペースが建物の床面積の4割近くを占めてしまう。ロープで吊るすと1つのカゴにつき1本のエレベーターシャフトが必要だからだ。
しかしリニア形式だと斜め移動で隣のシャフトに移動したり、追い越しもできたりするので、カゴの数だけのシャフトが不要となり省スペース化が図れる。
さらに、シャフトを水平にすると、道路や公園の上空を通って隣のビルに移動するということも現実となる。まさに近未来を描いたアニメや映画の世界となる。



