モビリティ

2025.10.07 08:15

万博でも注目! 磁力で動く「リニアエレベーター」が提示する未来図

リニアモーターエレベーターが描かれた未来社会

磁力を失ったカゴは落下するのか?

とはいえ、マルコンの話を聞いて、大きな心配事も生じた。もし停電したら、磁力の支えを失ったカゴは落下するのではないか。尋ねてみると、彼は笑みを浮かべながら「多くの人たちが同じ質問をします」と言いながら、デモ機が一番高くまで上昇したところで電力停止ボタンをポンと押した。

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展示されているデモ機
展示されているデモ機

磁力がなくなったら重力のままにストンと落下すると考えていた私の目の前を、デモ機はゆっくりと1秒間に10センチほどのスピードで降りていく。しかも全く加速する気配がない。

その原理は明快だった。永久磁石をコイルに近づけて移動させるとコイルに電力が発生する。発電機の基本構造だ。実は回転型のモーターと発電機は構造が変わらない。コイルに電気を流せば回転力が発生し、コイルの軸を回転させると電力が生まれる。

赤と緑の部品が永久磁石でその左の金属部材の中にコイルが内臓
赤と緑の部品が永久磁石でその左の金属部材の中にコイルが内臓

要するにカゴの重さが持つ位置エネルギーが電気エネルギーに変換されるので、重力に反発して直ちに落下しないのだ。中学校の理科で習う「フレミングの左手の法則」の原理だ。

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通常のエレベーターも、ロープが切れても落下しない。なぜならシャフト内でカゴを左右から挟んでいるレールに安全装置が付いているからだ。車のシートベルトのようにエレベーターが急に加速するとロック機構が働く。同じ装置はリニア形式にも導入できるので、ロープが切れるとこの装置が動かなければ落下するロープ式より、さらに一段安全だと言えよう。

では、大手のエレベーターメーカーは、なぜこのリニア形式の開発に本腰を入れないのか。マルコンに聞いてみると「テスラが出てくるのを恐れているのかもしれません」とだけ語った。

確かにエレベーターの製造は、世界でも国内でも数社が独占する寡占市場だ。駆動機構を根本から変える技術革新が起きると、既存メーカーの地位が脅かされる可能性は大いにある。

今回、「リニアモーター」形式のエレベーターのデモ機を展示したのは、マルコンが率いるスタートアップ企業リニアリティーと、彼が教授を務め10年以上共同での研究開発を続けてきた「神戸情報大学院大学」(神戸市中央区)の産学共同チームだ。大学院大学の教職員や学生もリニアリティーの技術者と一緒になって、この技術を多数の人に伝えようと力を注いだ。

「2025年日本国際博覧会協会」のウスビ・サコ副会長も、来賓として招かれた関連イベントで、このエレベーターが動いている未来都市の姿に希望を見たと話したという。

まさにリニア形式のエレベーターは、関西・大阪万博のメインテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」に、ピタリと当てはまる。神戸情報大学院大学とリニアリティーの次なる動きに、多くの人たちの注目が集まっている。

連載:地方発イノベーションの秘訣
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文・写真=多名部 重則

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