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2025.10.04 08:00

フェイスブックが彼を資産1500億円のビリオネアにした──ジム・ブライヤーの投資哲学

ベンチャーキャピタリストのジム・ブライヤー(Photo by Matt Winkelmeyer/FilmMagic)

ベンチャーキャピタリストのジム・ブライヤー(Photo by Matt Winkelmeyer/FilmMagic)

ドットコム崩壊の余波が残る2005年。まだ学生向けSNSだったフェイスブックに賭けた投資家がいた。ジム・ブライヤーだ。彼はこの投資で100倍超の回収を実現し、2011年に資産が10億ドル(約1470億円。1ドル=147円換算)を初めて超え、ビリオネアとなった。近年は暗号資産でも成果を上げた。米ドル連動型ステーブルコインUSDCの発行体サークルに初期から出資し、2025年6月のIPOで時価総額は一時550億ドル(約8.1兆円)まで上昇。米国ではステーブルコインの準備金を米国債で運用し利息を稼ぐモデルが標準で、これが評価の背景にある。ブライヤーはこの上場で資産を再拡大し、「フォーブス400」に復帰した。

次はAIと医療だ。拠点はオースティン。AIとライフサイエンスの統合に資金を振り向け、臨床の論文参照を支えるOpenEvidenceなど実需領域を狙う。本稿では、その投資哲学と勝ち筋を検証する。

テーブルコインの発行元「サークル」のIPOで再浮上、再び長者番付「フォーブス400」へ

8月半ば、ブライヤーはテキサス州オースティンの自宅からカリフォルニア州ペブルビーチにある豪華な別荘に向かった。旅の目的は、モントレー・カーウィークの最終日に開かれた「世界で最も権威ある自動車ショー」とされる「コンクール・デレガンス」に顔を出すことだった。ただし、彼はエレガントな車を眺めるのは好きだが、熱心な収集家ではなく、自宅の車道には新しめのBMWとランドローバーが置かれている。ブライヤーはこの旅で、ゴルフと旧友との再会を楽しんだ。

人々の話に耳を傾けることこそが、ブライヤーの強みだ。アイデアと投資、そしてカレッジフットボールの話が大好きな彼は、フェイスブックへの初期投資を成功させて2011年にビリオネアとなったが、今年6月に再び賭けを成功させた。それは、彼が初期から支援したステーブルコインの「USDC」の発行元のサークルの新規株式公開(IPO)が、暗号資産に熱心な投資家の支持を受け、時価総額を瞬く間に550億ドル(約8.1兆円)に押し上げたことだった。同社のCEOで共同創業者のジェレミー・アレールに次ぐ2番目の個人株主であるブライヤーは、このIPOの直後に、資産をそれまでの2倍以上の57億ドル(約8379億円)にまで上昇させていた。

「私は、創業者には身銭を切ってほしいと願っている。同時に投資家も十分に身銭を切ることが理想だ」と彼は言う。

サークルをめぐる熱狂は、その後いくぶん落ち着き、ブライヤーの資産も目減りした。ステーブルコインの裏付けとして保有する米国債の運用益を主な収入源とするサークルの株価は、6月下旬にピークに達した後、9月末までにその半分程度に下落した。

それでもサークルの時価総額は、今年の予想売上高25億ドル(約3675億円)の12倍超の330億ドル(約4.9兆円)に達しており、8月半ばに約1億ドル(約147億円)を現金化したブライヤーは、今もなお17億ドル(約2499億円)超に相当する8%の株式を保有している。他の資産を合わせ、年初の2倍の推定38億ドル(約5586億円)を保有する彼は今年のフォーブスの米長者番付「フォーブス400」に、2021年以降で初めて復帰した。

サークルへの彼の賭けは、12年越しで実ったものだ。ブライヤーが同社に初めて投資したのは、ビットコインが世に登場してから4年後の2013年だった。当時のサークルは暗号資産を保管・管理する場所にすぎず、「ステーブルコイン」という言葉すら世の中に浸透していなかった。だが、ブライヤーは同社のCEOのジェレミー・アレールが、以前に立ち上げたオンライン動画企業ブライトコーブに出資していたのだった。

2人はハーバード大学キャンパスの中心にあるハーバード・ヤードで落ち合い、長い時間歩きながら語り合った。そして「別れ際に、握手を交わして投資を決めた」とブライヤーは振り返る。彼は、早い段階でサークルへの投資枠を確保しておきたいと考えていたのだ。「徹底的に調査を重ねる中で、暗号インフラとその技術スタックが途方もない機会を生み出すと確信していた」とブライヤーは語る。当時の同社株は1株27セントだった。

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翻訳=上田裕資

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