両国の貿易戦争は、より広範な地政学的難題にも及んでいる。中国は米国産原油の輸入を減らしている一方で、ウクライナ侵攻を巡り欧米から厳しい制裁を受けているロシアからの原油輸入を増やしている。さらに、中国はブラジルやアルゼンチンから大豆を輸入している。
中国は現在、米国産大豆を一切発注していない。米国が大豆の収穫の最盛期を迎えようとする中、季節初めの需要の95%をブラジル産で賄っている。ブラジルは南半球に位置するため、収穫期がほぼ逆となる。これに加え、アルゼンチンが穀物輸出に対する輸出税を一時的に撤廃したことから、中国は同国からの大豆輸入も開始した。米国、ブラジル、アルゼンチンは、世界三大大豆生産国だ。
トランプ大統領はブラジルに対する関税率を50%に引き上げ、多数の「除外品目」を設定した。これは恐らく、同国の最高裁判所がジャイル・ボルソナロ前大統領に禁錮27年を言い渡したことに対する報復措置とみられる。一方、アルゼンチンに対しては、トランプ大統領は2000万ドル(約30億円)の経済支援策を検討している。ブラジルのボルソナロ前大統領も、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領も、トランプ大統領の盟友として知られる。だが、トランプ大統領と米国の大豆農家は現在、両国に怒りを抱いている可能性がある。
中国によるブラジルとアルゼンチンからの大豆輸入は、米国の収穫期が近づくにつれ、増加している。2009年以降、米国産大豆の収穫の最盛期に当たる10~1月には通常、対中輸出額が10億ドル(約1500億円)を突破していた。米国産大豆の対中輸出がこの4カ月間の最盛期中にゼロに落ち込んだのは、トランプ大統領の最初の任期中の2018年11月だけだった。米中貿易戦争の停戦期限が迫る中、米国産大豆の収穫が最盛期を迎えようとしているが、対中輸出が再びゼロにまで落ち込むかどうかは見通せない。


