この先の展開
イノベーションはますます分散化するようになっており、共有ビジョンはいっそう重要になっていくだろう。以下のような、新たに生まれつつある変化を考えてみよう。
1. 業界をまたいだイノベーションのエコシステム
ブレークスルーの次なる波では、業界をまたいだコラボレーションが必要になるだろう。医療であれ気候テックであれモビリティであれ、共有ビジョンは、優先事項がさまざまに異なる企業をまとめる要になる。
例えば、自動車会社、バッテリーメーカー、クリーンエネルギーの提供者は、「温室効果ガス排出量ネットゼロの輸送」を軸にして足並みをそろえる必要がある。
2. AI拡張型のコラボレーション
AIツールは、生産性を高める道具としてだけでなく、共有ビジョンを磨いて伝える時に役立つ協力者としても、頭角を現しつつある。チームのワークフローに組みこまれたAIエージェントを想像してみよう。ミーティングを記録するだけではない。コミュニケーションの内容をもとに、チーム間の戦略の不一致を特定し、問題を解決できる関連分野の社内エキスパートを洗い出し、組織が明示した戦略的ビジョンをもとに、プロジェクト計画の草案まで生成するようなAIだ。
3. 没入型のビジョン空間
空間コンピューティング環境で仮想プロトタイプをひととおり説明できるとしたら、新製品のビジョンをスライド資料でチームに伝える必要があるだろうか? メタバースと関連テクノロジーにより、チームが一貫した共通の3D空間で、アイデアやデータ、製品と相互作用できるようになれば、ビジョンはより明確になり、コラボレーションはより直観的になるだろう。
4. 従業員主導のイノベーション・ムーブメント
Z世代とミレニアル世代が労働人口の多数派になっていくと、パーパス(長期的目標)で駆動される共有ビジョンを求める声が強まると予想される。そうした世代に共鳴するビジョンを明示できない企業は、最高の人材とイノベーションの能力を失うおそれがある。
革新のためのビジョン
イノベーションには、1人の人間のビジョン以上のものが求められる。ビジョンは共有されなければならず、関係者全員に方向性を示し、インスピレーションを与えるものでなければならない。
コラボレーションに参加する人たちから、嘘偽りない賛同を得られるような強力なビジョンを構築すれば、リソースやインサイトを解き放ち、それぞれのアイデアを、次なるレベルへと進められるようになる。
実験する自由、各自の取り組みで創造性を発揮する自由を協働者に与えれば、そこから得られる教訓は明白だ。未来は、孤独な天才が発明するのではない。共通の目的のもとに結集してコラボレーションする、一致団結したチームによって作られるのだ。
共有ビジョンとは、方向性、パーパス、大志に関する集団の合意だ。共有ビジョンという豊かな大地にこそ、コラボレーションが根づき、イノベーションが花開くのだ。


