人間起因の障壁を乗り越える
そうした境地を開く上での最大の障壁は、テクノロジーではなく人間にある。
短期的要素
・惰性と不安:各部署のサイロ化、なわばり争い、NIH(Not Invented Here:ここで発明されたものではない)症候群。こういった心理がコラボレーションを破綻させることもある
・ビジョンの希薄化:ビジョンが曖昧すぎると、意味のないものになってしまう。「ベストを尽くせ」は、ただの決まり文句にすぎず、ビジョンではない。インスピレーションを与えると同時に実行可能でもあるビジョンを明確に示すことはリーダーの課題だ
・調整の乱れ:さまざまな関係者が、ビジョンをそれぞれ違うように解釈する結果、分断されたバラバラの取り組みになってしまうおそれがある
・実行のギャップ:説得力のあるビジョンを明示していても、それを日々のプロセスに落とし込むのに失敗する場合もある
長期的要素
・ビジョン疲れ:ビジョンが絶えず変化していると、信頼や積極的な関与が損なわれる。効率の悪いミーティングやコミュニケーションも、エネルギーとやる気をくじいてしまう
・規模と機敏さ:組織の規模が大きくなるにつれて、結束力のあるビジョンを維持し、形式的なものに陥ってしまうのを避けるためには、恒常的な努力が必要になる
・集団浅慮(合意形成をすることによって、かえって不合理な結論や行動を引き出してしまうこと)の回避:ブレークスルーに欠かせない、健全な意見の相違や、急進的なアイデアを、組織内の文化が抑えつけることもある。チームの全員が、安心して現状に異議を唱えられること、そうした姿勢が推奨されていると感じられるようにすることが何よりも重要だ
・利益相反:エコシステム内のパートナーの優先事項がそれぞれ異なり、そこからコラボレーションにひずみが生じるかもしれない
・文化的抵抗:すべての組織が、透明性やコラボレーションを受け入れるわけではないが、共有ビジョンにはその両方が必要だ
上にまとめたような数々の障害・課題が存在するものの、対処することで得られる利点は極めて大きい。短期的には、問題解決の迅速化、メンターシップの向上、従業員エンゲージメントの向上が得られるだろう。長期的には、レジリエンスと適応力の高い文化を構築し、イノベーションという点で、競合相手を常に上回ることができる。


