イノベーションは、孤独な天才の才能のひらめきとして描かれることが多い。私たちが思い浮かべるのは、iPhoneを発表するスティーブ・ジョブズや、電気自動車の次なる飛躍について語るイーロン・マスクだ。
そうしたイメージとは裏腹に、ひときわ大きな変革をもたらすイノベーションは、1人の人間の営みからではなく、多くの人が共有するビジョンから生まれる。
そうしたビジョンがなければ、最先端のテクノロジーだろうが、最高の才能を持つ人だろうが、エネルギーを集中させられず、無駄にしてしまうことになりかねない。共有されたビジョンがあれば、組織やエコシステムによる相乗効果が解き放たれ、個々の貢献者が他者の力を増幅し、イノベーションの新境地を切り開ける。
共有ビジョンがイノベーションの原動力になる理由
イノベーションの核心は、価値をもたらす新しい何かを創出することにある。しかし価値の定義は、エンジニア、マーケティング担当者、顧客、規制当局者、投資家によってそれぞれ異なる。共有ビジョンが、こうした関係者たちに対し共通の言語と目的を提供することで、さまざまな関係者が足並みをそろえ、協働し、前進を加速できるようになる。
その理由は、大きく言えば以下の3つだ。
1. 方向性:共有ビジョンは「我々はどこへ向かっているのか」を明確にする。チームは、より大きな全体像を支える方向で、イノベーションを起こすことができる
2. 調整:部門をまたぐ優先事項を一致させることで、相反する方針を回避し、摩擦を和らげ、無駄な労力が消費されないようにする
3. インスピレーション:明確に表現されたビジョンは、チームやパートナー、さらには顧客をも結集させ、イノベーションに目標だけでなく意味ももたらす
共有ビジョンをコンパスとするなら、コラボレーションは船を動かすエンジンだ。持続可能なエネルギーソリューションの開発から、真の意味でパーソナライズされた医療の創出まで、現代の課題は非常に多面的であり、単一の部門や分野で解決することは不可能だ。
ブレークスルーというものは、境目、つまり異なる視点やスキルセットが衝突する場所で生まれる。コラボレーションは、そうした建設的な衝突をつくりだすための組織立ったプロセスだ。
コラボレーションは、各人のパフォーマンスを上げてイノベーションを成功させるための鍵でもある。Deloitte(デロイト)の調査によれば、コラボレーションしているときの方が革新的になる労働者は60%に上る。そして73%は、全体的な仕事のパフォーマンスもよくなるという。



