その火付け役となったのがやはりTikTokによるオーガニックなバズの発生だ。昨年から 今年にかけても05年にリリースされたTommy february6「Lonely in Gorgeous」や03年にリリースされたHALCALI「おつかれSUMMER」がY2Kブームを通じてTikTokで再発見されストリーミング数を増やしている。06年にリリースされたTERIYAKI BOYZのヒップホップナンバー「TOKYO DRIFT」も高い人気を誇る。
千葉雄喜の躍進も見逃せない。KOHH名義のころからアジアやアメリカでの活動を繰り広げていた彼。コラボレーションの広がりが 国境を超えた支持につながった。24年にリリースした「チーム友達」は日本国内のみならず海外アーティストもリミックスを発表。また、フィーチャリングで参加したミーガン・ジー・スタリオンの「Mamushi」は米ビルボード「Hot 100」で36位を記録するなどUSヒップホップシーンのメインストリームでヒットした。
ガールズグループやボーイズグループの分野においても日本発のグループが着実に海外での認知を獲得しつつある。ONE OREIGHTの「DSTM」はアメリカのラジオチャート「メディアベーストップ40」に日本人ボーイズグループとしてランクインを果たした。 f5veの「Underground」は英NMEにより 24年のベストソング50に選出された。StargateやBloodPopといった実績あるプロデューサーが楽曲を手がけていることがその背景にある。
インディーロック勢も着実に支持を広げている。00年に結成された3人組バンドLampは日本では知る人ぞ知る存在ながらSpotifyの月間リスナー数が200万人を超えるほど海外で人気となっている。3人組オルタナティブ・ロック・バンドのMASS OF THE FERMENTING DREGS、青葉市子や坂本慎太郎もアメリカやヨーロッパで収容人数1000人以上の規模の会場でライブを行い活況を呈している。
日本の音楽の強みは「多様性と蓄積」にある。アイドル、ロック、ボーカロイド、ヒップホップ、インディーポップ、VTuberなど、幅広いジャンルのアーティストが活躍しているのが日本だ。最新の楽曲だけでなく、シティポップなど70年代以降の良質な楽曲が再発見されることも多い。こうした縦横の厚みが「日本語のポップス」のもつ可能性と言っていいだろう。
しば・とものり◎1976年、神奈川県生まれ。音楽を中心にインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオ出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』『ヒットの崩壊』『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』など。


