経済・社会

2025.10.17 13:30

トランプ関税が開く地経学の扉:地経学研究所の一葉知秋

ただ、ここでアメリカの地経学的パワーに対抗したのが中国である。中国は、レアアースという、アメリカが圧倒的に依存している物資があるため、この輸出規制を強化することで、アメリカの製造業に影響を与えることができる。つまり、中国のレアアースは、アメリカに対して「モノの不可欠性」をもっており、その不可欠性がある限り、アメリカは中国に頭が上がらない状況になる。その結果、ほかの国々との関税交渉は一通りの合意ができたのに、中国との関税交渉は期限であった8月12日から延長し、11月半ばまで続くこととなった。

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中国の場合、レアアースが自国内で採掘できるだけでなく、その精錬も独占的に行うことで不可欠性を生み出している。このプロセスで独占的なシェアを持てば、不可欠性を獲得することができる。これは資源のない日本でも、技術力や製品の品質の高さを極めれば不可欠性を得られることを示唆している。

このように、第2次トランプ政権の関税政策は、地経学的分析の格好の事例を示している。自由貿易によって、各国のバリューチェーンがつながり、相互依存関係が強化されることで、逃げられない「罠」にはまってしまい、国際分業によって「戦略的不可欠性」が生じるようになったが、その不可欠性を「武器」として活用し、他国に対してパワーを行使することが可能になったのである。まさに、現代において、国際関係は地経学的パワーを無視して分析することができないのである。


鈴木一人◎立命館大学大学院修士課程修了、英国サセックス大学大学院博士課程修了(現代ヨーロッパ研究)。筑波大学大学院専任講師・准教授、北海道大学公共政策大学院准教授・教授を経て2020年10月より東京大学公共政策大学院教授。国連安保理イラン制裁専門家パネル委員(2013-15年)。22年7月、国際文化会館地経学研究所(IOG)所長就任。

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