起業家

2025.10.02 12:30

37歳で資産2.6兆円に到達、評価額3.5兆円の「Surge AI」率いる異端の起業家

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忍び寄る経営リスク、集団訴訟とAIによる自己学習の波

しかし、時給で働くアノテーターには、本業として従事している人も多いのに、福利厚生がない。こうした仕組みは訴訟リスクを招いており、Surge AIとScale AIはいずれもカリフォルニア州で、「フルタイムの従業員を独立請負人として扱い、休暇や医療保険といった福利厚生を回避している」と主張する集団訴訟に直面している。

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「Surge AIが、労働者を利益のために意図的に搾取しているのは、テック大手がAIの主導権を争う中で広がり続ける潮流の一部だ。我々が責任を問わない限り、この状況は変わらない」と、ロサンゼルスに拠点を置くクラークソン法律事務所のパートナー、グレン・ダナスはフォーブスに語った。「突き詰めれば、Surge AIがしているのは大規模な賃金の未払いに等しい」。

これに対しチェンは「この訴訟には根拠がないと考えている」と反論する。彼とScale AIの広報担当ジョー・オズボーンはいずれも、徹底的に会社を守る構えを見せており、訴訟は現在も進行中だ。

一方、AIの進歩が加速するなかで、Surge AIのような企業に突きつけられる本質的な問いは、「いずれは人間によるデータアノテーションが不要になる時が来るのか?」というものだ。メタの研究者によれば、今年4月に公開された同社の最新モデル「Llama 4」は、すでにAI自身がデータを生成しラベルを付ける「シンセティックデータ」に大きく依存している。

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しかし、Surge AIはこのアプローチを応用しつつも、「ヒューマン・イン・ザ・ループ」と呼ばれる手法を採用し、AIが自らデータを生成しラベルを付けるものの、人間がそこに介入し、その成果を吟味・批判する仕組みをとっている。「人間の役割は不可欠だ」とチェンは強調する。「人とAIが協働すれば、どちらか一方だけでは到達できない水準を超えられる」というのが彼の持論だ。

とはいえ、人間がある程度関与し続けるとしても、AI自身による自己学習が主流になれば、学習コストは大幅に下がり、Surge AIの収益にも影響が及ぶだろう。さらに同社を悩ませているのは、VC資金の大波が競合に流れ込んでいることだ。潤沢な資金を得た競合は、少なくとも短期的には収益性を気にする必要がなく、業界全体の利益率を押し下げている。

OpenAIなど主要顧客の離脱、盤石ではないビジネスの足元

実際、主要顧客2社はすでに離れており、OpenAIの広報担当者は同社がSurge AIとの取引をやめたことを認めている(競合のMercorやInvisibleは、OpenAIが自社の顧客だと発表している)。初期の顧客だったAI研究所Cohereも、データアノテーション業務をほぼすべて内製化している。

ただし、AIモデル開発企業は、特定の外部業者に長く依存することはほとんどない。Surge AIの顧客の多くも、同時に競合とも契約を結んでいる。たとえばメタは、数十億ドル(数千億円)を投じてScale AIの株式の半分を取得した後もなお、Surge AIを利用し続けている。

「この市場は“勝者総取り”ではない」と語るのは、アシュ・ガルグだ。彼は、Turingの投資家でありFoundation Capitalのパートナーでもある。世界の巨大企業がIT予算の一部をAIやデータサービスに振り向け、従来型のITサービスのシェアを侵食できれば、この市場は1兆ドル(約147兆円)規模になり得るとガルグは話す。

買収にもIPOにも興味はない

チェンは、業界がどう進化しようとも、「人工汎用知能(AGI)」が登場するその時までは、Surge AIを経営し続けるつもりだ。ただし、それが本当に訪れるかどうかは別問題だ。サム・アルトマンはAGIの到来が差し迫っていると確信しているが、チェンの見立てはより慎重で、実現は20年スパンになると予想している。

会社の将来について、チェンは「買収されることには根本的に関心がないし、IPOをするつもりもない」と言い切る。「なぜ誰もが上場したがるんだろう? 上場企業の大きな問題は、常に短期的な業績を気にしなければならないことだ」と彼は語った。

一方で、Surge AIのプロダクト責任者のニック・ハイナーは別の見方を示す。「もしこの会社が存在しなかったら、エドウィンは趣味で何をしていると思う? きっとデータを作ってAIを訓練していただろう。たまたまそれが金になるビジネスになっているだけなんだ。でもそれは、マイケル・ジョーダンのダンクを見ているようなものだ。これはもう、彼が生まれながらにしてやるべき仕事だったんだ」と彼は語った。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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