食&酒

2025.10.15 11:15

1席100万円で落札も 「食オク!」参加店に聞くオークションの存在意義

『成生』店主の志村剛生氏

同店が毎年欠かさず実施しているのが、スタッフ全員でのスペインへの研修旅行である。バルセロナやバスク、直近には南部のアンダルシアまで、エリアを変えながらスペイン各地を訪問している。

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「スペイン料理 acá」東鉄雄オーナーシェフ
「スペイン料理 acá」東鉄雄オーナーシェフ

「もちろん会社が全額負担です。皆で必死に頑張って働いて得た売上の一部ですから、それを使って旅することがベストな選択なのか、思い悩んだこともありました。しかも旅行中約2週間は店をクローズさせなくてはならず、全く売り上げが立たない。しかし食オク!に出品するようになってから利益を旅費に充てることができるようになり、本当に助かっています」と東シェフ。

スタッフは実際に現地に足を運ぶことで、ゲストにスペインのリアルな風景を語れるようになった。「旅の話を常連の方々が楽しみにしてくれているのもありがたいですね。みんなで旅をすることでチームとしての結束力も高まり、お陰様で離職率は減少しています」

「acá」同様、スタッフへの投資に力を入れているのが、超予約困難店(今は会員制)の「鮨さいとう」だ。六本木一丁目の本店はじめ、多くの姉妹店を国内外で経営している同店にとって、有能な人材を育て各支店に配置することがブランドの維持と円滑な経営の肝となる。食オク!ではリリース当初から1席あたり数十万円の値がつき、ここ最近には1席100万円で落札され話題を呼んだ。店主の齋藤孝司氏は「全国の寿司屋のなかでも一番従業員に給料を払っている自信がある」と余裕の姿勢を見せるが、オークション参加の背景には予約困難店ならではの様々な悩みがあった。

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「ともかく転売がとても多いんですよ。ウチの予約を持っている人が見えないところで席の売買をして利益を得ているという状況に、なんだか複雑な心境になりました。そこに一石を投じたいという想いで親友が始めたのがこのサービスだったんです」

飲食店がオークションで利益を生むことに対して否定的な意見もあったというが、齋藤氏はそこに屈することなく前向きだ。「世界中のオークションでスニーカーやワインがあれだけ高値で取り引きされているのに、飲食店の席に高値がつくことに対してだけ文句が出るのはおかしいと思うんですよね」──そんな煮え切らない思いを齋藤氏は仕事への原動力に変えている。「この商売は本当に厳しいと思うけど、辛い分を利益だけでもちゃんと従業員に還元して、しっかり稼げる夢のある仕事だという誇りを持って働いて欲しいんです」と声高に語ってくれた。

『鮨さいとう』店主の齋藤孝司氏
『鮨さいとう』店主の齋藤孝司氏

オークションで広がる「食」の可能性

オークションの大きなメリットは、需要と供給のバランスによってモノが原価以上に大きな利益を出し、そこに新しい価値を生むことができる点である。今回紹介したのは批判されるリスクがあるなか、意を決して飲食業界の在り方に一石を投じた店舗だ。大きな需要を生むまでにブランドを磨きあげた彼らの革新的な挑戦とその功績に、筆者自身心からの賛辞と敬意を表したい。

食のオークションシステムをいかに健全に維持発展させるかはこれからの課題となるだろう。しかし現段階において、その利益は着実に第一次産業や次世代へと還元・継承されていることを、この取材を通じて実感することができた。

「食」は日本が世界に誇れるコンテンツのひとつ。職人技から生み出される料理や食体験はまさにアートと捉えることもできる。そこに多額の入札をする外国人旅行客や富裕層が増えているいることをポジティブに捉えれば、日本の飲食はますます強い産業になっていくのではないだろうか。

文=瀬川 あずさ

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