8月末日、静岡市の天ぷら専門店「成生」には、漁師をはじめとする漁業関係者とその家族が集まり、通常営業とは異なる活気をみせていた。
同店は、日本全国はもとより海外の美食家も殺到するいわゆる「超予約困難店」。店主の志村剛生氏が揚げる唯一無二の天ぷらを求め、飛行機や新幹線で静岡まで足をのばす。予約は既存顧客で瞬時に埋まり、たまにキャンセルなどで生じる僅かな空白を求め、美食家たちがネットワークを駆使して席確保に努めている。
このVIP席に地元の漁師たちが集ったのは、志村氏と焼津の老舗鮮魚店「サスエ前田魚店」前田尚毅氏の発案で企画された「生産者無料招待の会」のためだった。「自分が釣った魚が実際にどんなふうに調理されているのかを体験して欲しい」という想いから、8席×2回転で実施され、16人の参加者はその絶品の天ぷらの味わいに舌鼓を打ったという。
オークション益を生産者へ還元
このプロジェクトの資金源となっているのが、「成生」が定期的に出品している、超予約困難店の座席権利を取り扱うオークションサイト「食オク!」からの収益だ。
食オク!は2022年9月に開始したサービスで、会員数は現在3万人を超え(うち海外からの利用客が4割以上)、着実に利用者数は増加している。リリース当初、「値段の吊り上げや転売を助長すること」への懸念や「シェフが金儲けをすること」への反発から否定的な意見が数多く発信され、一部で炎上騒ぎになった。一方で「座席の予約権利をオークション形式で販売する仕組みは、飲食業界における収益の新しいアプローチになる」というポジティブな意見も上がり、否定派と肯定派の双方から様々な意見が飛び交った。
やや誤解を受けやすいサービス形態ではあるが、このオークションサイトの画期的な部分は、出品権利は「予約保有者」ではなく「店舗」にあり、利益の7割が参加店へ還元されるところにある。売上の頭打ちや原価上昇などの課題を抱えている店舗にとっては、キャンセルで空いた席などの出品が新たな収益源になるというメリットがある。
食オク!のホームページでは、「飲食店の収益は、高騰する仕入れの拡充や店舗スタッフへの還元、全額を支援に充てるなど、食文化の発展に繋げていきます」と謳われているが、店舗の活動や想いを我々に知る術がないのがもどかしい。よって今回は、出品している注目店舗を数件取材し、その収益を元に行われている取り組みと「オークション」システムの存在意義について考証した。



