エレクトロニック・アーツ(EA)は、サウジアラビアのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)、シルバー・レイク、そしてジャレッド・クシュナーのアフィニティ・パートナーズが主導する総額550億ドル(約8兆1800億円)の全額現金買収によって非公開企業化される。この取引は史上最大のレバレッジド・バイアウト(LBO)であり、ゲーム業界を代表するパブリッシャーの1つが、非公開化によってより急速に成長できるかどうかを賭ける大胆な試みである。
EAは企業価値をおよそ550億ドル(約8兆1800億円)とする最終合意を結び、株主は1株あたり210ドルの現金を受け取る予定だ。
サウジのPIF、シルバー・レイク、アフィニティ・パートナーズから成るコンソーシアムはEAの株式100%を取得するが、PIFは既存の持分約10%を売却せず、新会社の株式として持ち越す形をとる。
買収資金は約360億ドル(約5兆3500億円)のエクイティと、JPモルガンが約200億ドル(約2兆9700億円)をコミットしたデットで構成され、そのうち180億ドル(約2兆6800億円)がクロージング時に拠出される見込みである。
取引は取締役会で承認されており、株主および規制当局の承認を経て2027年第1四半期の完了を目指す。
取引完了後、EAは上場廃止となるが、本社は引き続き米カリフォルニア州レッドウッドシティに置かれ、アンドリュー・ウィルソンCEOも続投する。
金融プラットフォームを提供するディールロジックの調べによれば、この取引が成立すれば2007年に実施された電力会社TXUの非公開化を超え、史上最大のレバレッジド・バイアウト(LBO)となる。
シルバー・レイクの共同CEOであるイーゴン・ダーバンは、「我々はアンドリューと共に投資・提携できることを光栄に思う。彼はCEOとして売上を倍増させ、EBITDAをほぼ3倍にし、時価総額を5倍にした比類ないリーダーだ」と語った。アフィニティ・パートナーズのジャレッド・クシュナーも「EAが『象徴的で長く続く体験』を生み出す能力は、自分を生涯のファンにし、今では子供たちと一緒に楽しんでいる」と述べた。
EAはシリコンバレーでも最古参のゲーム企業の1つであり、1982年に元アップルのマーケティングディレクターであるトリップ・ホーキンスによって創業された。初期にはクライナー・パーキンスやセコイアの支援を受けている。
同社のラインアップは、『マッデンNFL』や『FIFA』(現在は『EA Sports FC』)といったスポーツゲームから、『ザ・シムズ』のようなライフシミュレーション、『バトルフィールド』のようなシューティングまで幅広い。
今年初めには、同社がサッカー系タイトルの販売不振により通期のネットブッキング(総収入から返金などの費用を引いた独自指標)が低迷すると発表したことで、株価が17年ぶりの大幅下落を記録した。それでも、買収側にとって、EAは文化的な存在感と安定した収益を兼ね備えた稀有な存在であり、ゲーム業界で最も価値の高い資産の1つと見られている。
前回のメガ買収ブームは2008年の金融危機後に崩壊した。デットに大きく依存した取引、たとえば450億ドル(約6兆6900億円)規模のTXU買収は最終的に破産に至った。だが現在の巨大取引はデットよりもむしろ、政府系ファンドや資本力のある投資家に支えられている。PIFによる49億ドル(約7300億円)のスコープリー買収、シルバー・レイクによる250億ドル約3兆7200億円)のエンデバー買収などがその典型だ。
この巨額の資金力こそが、業界最大級の賭けを可能にしているのである。



