日本銀行が当面利上げをしそうにないもうひとつの理由をお探しなら、「338兆ドル(約5京円)」という数字がその答えになるだろう。
これは2025年6月末時点の世界全体の債務残高だ。今年に入ってからだけで21兆ドル(約3100兆円)も膨らんでいる。そして、この統計を発表した国際金融協会(IIF)から「財政逼迫が深刻化するのではないかと市場で懸念されている」国のひとつに挙げられているのが、案の定、日本なのだ。
すでに日本は先進国で最大の債務を抱えており、国内総生産(GDP)に対する比率はおよそ260%に達する。また、20年物日本国債の利回りは1999年以来の高水準付近に上昇している。
言うまでもなく1999年は、日銀が主要7カ国(G7)で初めてゼロ金利政策を導入した年である。20年物国債の利回りがその年の水準近くまで戻っていることは、これほど重い債務負担を背負う国にとって本物の問題だ。
しかも、状況がさらに悪化するのは避けられそうにない。与党の自由民主党は10月4日、石破茂首相に代わる新たな首相となる新総裁を選出する。だが自民党が政権を維持するには、減税を主張する野党との連携が不可欠なのだ。
ちらつく減税に「債券自警団」は不安を募らせている。彼らは先ごろ、20年物日本国債の利回りを26年ぶりの高水準に押し上げ、日本をありがたくない格好で世界のニュースの見出しにした。懸念されているのは、先進国で最大の債務負担がますます膨らみそうな点だ。
もちろん、これは世界的な問題でもある。投資家の間ではここ数週間、英国やフランスが借り入れコストを制御できなくなり、国際通貨基金(IMF)への支援要請に追い込まれるのでないかとの観測も浮上している。また、米国の政府債務残高も37兆ドル(約5500兆円)超に膨れ上がっている。
日本は、景気刺激策抜きで成長する道筋を見失ってしまった先進国の一例である。ステロイドのような、即効性のある増強剤に頼らなければ成績を上げられないアスリートを想像すればいい。そうした増強剤はやがて効果が薄れてくるので、ますます多くの投与が必要になる。



