経営・戦略

2025.09.30 14:00

なぜ多くの経営者が「時代遅れ」になりつつあるのか?AI時代に生き残る企業の条件

Shutterstock.com

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起業家でスタンフォード大学の客員教授を務めるスティーブ・ブランクは先ごろ、「Blind to Disruption -- The CEOs Who Missed the Future(創造的破壊に対して盲目で、未来を見誤ったCEOたち)」と題した素晴らしい記事を書いた。20世紀初頭、新技術の台頭により従来の手法が時代遅れになったことで、何千もの馬車会社があっという間に消え去った事例について論じたものだ。

現在も、多くの経営者が、同じような陳腐化のリスクに直面している。過去100年にわたって彼らが続けてきた手法のほぼすべてが、どんどん時代に合わなくなりつつあるからだ。なお、先に述べておくが、そうしたリスクの主因はAIではない。

新たなヒントは「神経経済学」に?

むろん、彼らに助言する声は多い。マクロ経済学やミクロ経済学からの助言については、おそらく皆さんも聞いたことがあるだろう。そこへ今、新たな経済学の一派が台頭している。神経経済学者(neuroeconomists)を名乗る彼らは、「経営上の意思決定の質を高める」という目的のもとに、人間の脳に関する高度な科学的研究を行なっている。

彼らが提示する意思決定の基本的枠組みは、一見すると理にかなっている。例えば、米国立医学図書館(National Library of Medicine)のサイトに掲載された論文のなかで、アントニオ・ランゲル、コリン・キャメラー、P・リード・モンタギューが提示した枠組みがそうだ。

この枠組みでは、意思決定のプロセスを5つの段階に分けている。第1に、解決すべき問題は何か。第2に、取り得る行動には、それぞれどのような価値があるのか。第3に、取るべき行動は何か。第4に、下した意思決定がどれだけの価値をもたらしたか。そして最後に、今後に向けた教訓は何か。

「問題の特定」こそが問題

神経経済学における研究の大半はこれまで、上記の2~5段階目に関わる、高度に専門的な神経学的分析に焦点を当ててきた。

しかし実のところ、現代の経営における主要な問題は別なところにある。それは、第1段階の「解決すべき問題は何か」に関わる問題だ。

1世紀以上にわたり、経営者が取り組んできた中心的な問題は、いかにコストを削減して利益を最大化するかだった。これは、主流派経済学の基盤をなす概念だ。1991年に、ロナルド・コースがノーベル経済学賞を受賞した理由もここにある。コースは、企業は取引コストを削減し、利益を増大させるために存在すると説明した。ほぼすべての経済学の入門書にも、この洞察が今なお自明の、異論を差し挟む余地さえないものであることが記されている。

経営の理論もまた、少なくとも過去半世紀にわたって同様の路線をとってきた。経営の主眼は、利益を増やして株主価値を最大化することに置かれてきた。米経営者団体「ビジネス・ラウンドテーブル」は、何十年にもわたってこのスタンスを掲げてきた。ビジネススクールでも今なおそのように教えられている。大企業でも、こうした従来型経営のプロセス、システム、思考様式の大半が、依然として機能している。したがって、好むと好まざるとにかかわらず、それこそが経営者が解決すべき問題なのだ。

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翻訳=高橋朋子/ガリレオ

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