テクノロジー

2025.09.30 12:00

なぜ、AIの機能は多ければ多いほど良いとは限らないのか?

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過剰開発とイノベーションの違い

意図してビルドトラップに陥るリーダーはいない。しかし、最初は考え抜かれたイノベーションでも、注意を怠るとすぐに過剰開発へと転じる。

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このことは私自身がよく理解している。私の会社Jotformでは、この2年間、AIプロダクトの構築に全社を挙げて取り組んできた。自分たちの仕事には非常に満足しているが、この先もずっとAIだけに一点集中し続けるわけにはいかないことも認識している。

これは、芸術作品が完成したと判断する難題を思い起こさせる。ある時点を過ぎると、筆を重ねても絵が良くなるわけではなく、むしろ覆い隠してしまう。レオナルド・ダ・ヴィンチが有名な言葉で言ったとおり、「芸術は完成することはない、ただ見捨てられるだけ」なのだ。プロダクト開発も同じだ。もう一つの工夫、もう一つの機能、もう一つの最適化があり得るのか、と問われれば、その通りである。しかし注意しなければ、洗練は雑音へと変わる。作り続けられるからといって、作るべきだとは限らない。

イノベーションが過剰開発へと越境する明確な規則はないが、着目すべき兆候はある。ユーザーは新機能を実際に使っているだろうか。顧客がコア機能ばかりを使い、新しい追加機能を無視しているなら、それは外部のニーズではなく内部の勢いだけで作っている兆しだ。また、自らの動機を吟味することも重要だ。機能開発が、ユーザーの課題解決ではなく、チェックリストを埋めることや競合に追随することを目的とし始めたなら、立ち止まるべきタイミングなのだ。

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過剰開発は、多くの場合、良い意図から生じる。しかしイノベーションとは、どれだけ多く作るかではなく、何を作るかである。リーダーとして、意味のあるものを提供できた瞬間を認識し、その後は一歩引く自制心を持たねばならない。

価値に焦点を当てる

過去1年で、平均的な組織は本番稼働に至る前にAIの概念実証(PoC)の46%を打ち切ったことが分かった。この数字はAIのハイプ・サイクルの減速を示す可能性もあるが、私には、すべてのAIプロジェクトがスケールに値するわけではないという理解がリーダーの間で広がっていることを物語っているように見える。

ガートナーのデータ・アナリティクス&AI領域の主任であるリタ・サラムは、AIが本当に効果的な解決策となる場合と、他の選択肢を試した方がよい場合を、リーダーは極めて明確に見極める必要があると指摘した。そうしないと非常に高くつく可能性がある。2023年には、AIを導入した組織が概念実証の段階だけで30万〜290万ドル(約4500万〜4億3200万円)を費やした。

「生成AIにのみ注力する組織は、AIプロジェクトの失敗リスクにさらされるだけでなく、多くの重要な機会を見逃す可能性があります。生成AIをめぐる過剰な期待が、他の取り組みの余地を奪わないようにしたいですね」と彼女は付け加えた。

だからこそ、目的の明確さがこれまで以上に重要だ。AIプロジェクト――それが新しい製品機能であれ、裏側の自動化であれ――を立ち上げる前に、リーダーは最も基本的な問いを発する必要がある。「私たちは実際にどんな問題を解決しているのか」。

この問いに明確に答えられず、意味のあるユーザーやビジネスの成果につながらないなら、ブレーキを踏むべきサインだ。すべてのワークフローにモデルが必要なわけではない。すべてのタスクにエージェントが必要なわけでもない。ときには、より単純なツールで問題を解くのが最善であり、あるいは何もしないのが最善のこともある。

結局のところ、AIでの成功は、誰が最も多く作ったかではなく、誰が最も役立つものを作ったかで決まる。

forbes.com 原文

翻訳=酒匂寛

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