スポーツ賭博を合法化した米国の光と影、温床となっている可能性
相次ぐスキャンダルは、ある意味で予測できた事態だった。2018年、連邦最高裁はネバダ州など一部を除き、スポーツ賭博を禁じていた「プロ・アマスポーツ保護法(PASPA)」を無効とした。この禁止が撤廃された後、各州はスポーツ賭博を合法化し、独自の制度を立ち上げることが可能になった。現在では39州に合法的なスポーツ賭博市場が存在し、試合への賭けは野球と同じくらい米国では当たり前のものになっている。
「PASPAが撤廃された瞬間に、こうなることは分かっていた。ギャンブルはより身近になり、誘惑も増えた。スキャンダルはもっと増えると思う」とボウヤーは語る。
ボウヤーが摘発されたのは、ラスベガスのリゾーツ・ワールドで行われていた他の違法ブックメーカーに対する調査が拡大したことがきっかけだった。カジノは銀行と同様に、マネーロンダリング防止や顧客確認(KYC)の規則を守らなければならず、犯罪者による賭博を見過ごすことはできない。ブックメーカーとして知られていたボウヤーは、このリゾーツ・ワールドで大谷の資金およそ1200万ドル(約18億円)を賭けに使っていた。当時のカジノ社長スコット・シベラは解任されて賭博業のライセンスを失い、さらにネバダ州の賭博管理委員会から1050万ドル(約16億円)の罰金を科されていた。
ボウヤーは違法ビジネスを運営したことや、大谷のキャリアを危うくしかけたことについて責任を認めているが、自分とシベラはラスベガスの罪を押し付けられたのだと主張している。
「被害者ぶるつもりはない」とボウヤーは言う。「ベガスの件については、自分が身代わりにされた部分はあると思う。しかし、野球の件は違う。あれは自分が運営していたブックメーカーが原因で起きたもので、自分の責任だ」。
ギャンブル依存症の現実、胴元ボウヤー自身の止まらない渇望
自身がギャンブル依存症だと認めるボウヤーは現在、米国内のすべてのカジノから出入り禁止となっている。しかし2023年10月に自宅が家宅捜索を受けた直後、彼はカリフォルニア州テメキュラにあるネイティブアメリカン運営のペチャンガ・カジノを訪れ、好んでいたバカラをプレイした(その後、このカジノからも出禁となった)。
「いつも通り負けた」と彼は言う。「私はただ楽しみのためにやっていたんだ。ドーパミンの高揚感を得たくてね」。
有罪判決を受けてからのボウヤーは、出所後の人生に備えており、今年8月には、自身の半生を綴った著書『Recalibrate』を自費出版し、ブックメーカーとしての暮らしを題材にしたドキュメンタリーの企画も売り込み中だ。
ボウヤーは、映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』で知られるジョーダン・ベルフォートと、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』でレオナルド・ディカプリオが演じた元詐欺師フランク・アバグネイルを足して2で割ったような存在になりたいと考えている。だが、彼は再びギャンブルをするつもりなのだろうか?
「保護観察が終わった後、二度と賭けはしないなんて言うつもりはない。そんなのは嘘になる」と彼は語る。「でも、実際にやりたいと思うか? それとも完全にやめられるのか?」と自問し、「今までのことを考えれば、その可能性は大いにある。それに、正直なところ、もしまた賭けをやったら妻は間違いなく怒るだろう。それだけは言える」と続けた。


