サイエンス

2025.09.29 14:00

メディア王マードック家の後継者争いが示す、「一族の力学」に関する3つの教訓

Ron Galella Collection via Getty Images

Ron Galella Collection via Getty Images

「メディア王」と称されるルパート・マードック(94歳)が、数十億ドル規模のメディア資産に関する信託遺言を書き換えようとして法廷闘争にまで発展していた件について、2025年9月に決着がついた。

更新後の遺言で同氏は、他の子どもたちを抑えて、長男のラクランを、メディア資産の後継者に指名した。

今回の件でマードックは、米HBOで放映中の連続ドラマ『メディア王 ~華麗なる一族~』に最も近い、現実世界でのドラマを提供したと言えるかもしれない。しかしマードック家の場合、相続にかかっているものは単なるドラマではない。この相続の余波で、世界のメディア界のパワーバランスが塗り替わる可能性も大いにあるからだ。

とはいえ、マードックの決定は、「全か無か」のビジネス戦略ではなかった。心理学の見地から見ると、この巧みな一手は、一方で、ある程度予想がつくものでもあった。

我々のような外部のウォッチャーが目の当たりにしたのは、数十年にわたる家族内での帝王教育、えこひいき、冷遇の到達点と言える。だが、家族間(さらには事業における)心理学の研究者にとっては、マードック家の事例は、個人的なレガシーと、巨大な資産を持つビジネスがたやすく結びつくことを示す格好の実例と言えるだろう。

それでは、家族心理学の視点から、マードック家の相続から学べる3つの教訓について、以下に解説しよう。

1. 子育ての方針

巨大な富と権力が絡む、同族会社を率いる家族の内部では、子育てとリーダーシップの在り方が一体化することが多い。そしてルパート・マードックの場合、自身がゼロから築き上げたメディア帝国は、単なるビジネスを超えた大きな意味を持っており、マードック個人のレガシーと呼んだ方が適切だろう。

そして、同氏が築いたほどの偉大なレガシーであれば、人生の他の側面全体にそれが浸透していることは驚きではない。その影響は、経済的なビジョン、全体的な世界観、さらには家族間の序列にも及んでいる。この延長線上で考えれば、マードックの親としての姿勢は、同氏が自身の事業を率いるやり方と不可分の関係にあると考えて間違いはないだろう。

学術誌『Journal of Advanced Academics』に掲載された、成績優秀な若年成人層を調べた2017年の研究でも、この想定を裏付ける結果が出ている。この研究では、専制的な親のもとで育ったことと、「外部からの承認を根拠とする完璧主義」とのあいだには強い関連があることが明らかになった。これは、心理学者が社会規定的完璧主義(Socially-prescribed perfectionism: SPP)と呼ぶものだ。

簡単に説明するなら、これはつまり、厳格で多くを求める親のもとで育てられた子どもは、自分に内在する基準ではなく、課せられた期待にかなっているかどうかという点で、自らの価値を計りがちになるということだ。

逆に、子どもを励まし支えるタイプの親の場合は、より健全な、「自らの基準による完璧主義」につながるケースが多かった。

ここから引き出される結論は、もう明白だろう。つまり、より専制的な親の力学が充満する家族においては、子どもたちは、親のレガシーや理想を体現するようにしつけられるということだ。

マードックのこれまでの経歴を見れば、同氏が親としても専制的なタイプであることは推測できる。同氏は、保守的な思想や、妥協なき要求、トップダウン型の経営スタイルで知られた人物だ。こうした特質は、子育てにも波及しているように見受けられる。

マードックが後継者に指名した長男のラクランは、幼いころから、マードック家に家父長として君臨する同氏が、最も価値を置いているものを体現するよう教え込まれた。それはすなわち、忠誠心、保守主義、そして一家のビジョンへの絶対服従だ。

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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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