サイエンス

2025.09.29 14:00

メディア王マードック家の後継者争いが示す、「一族の力学」に関する3つの教訓

Ron Galella Collection via Getty Images

一方、他の子どもたちは、どうやら脇に追いやられていたようだ。一族が信奉する思想に疑問を突きつけたり、はみ出たりしようものなら、一家のレガシーを受け継ごうとする野望があったとしても、父親によって阻止されるのはほぼ間違いない──父親からの承認は、彼らにとっては、そもそも得ることが難しいものなのだ。

advertisement

こうした領域では、心理学とビジネスは真っ向から対立する。専制的な一族において、個性は、顧みられる価値のあるものとはみなされない。「完璧な子ども」こそが、専制的な親が掲げる理想像に最も近い姿だ。

マードック家の場合は、ラクランの後継者指名を、価値中立的なビジネス的判断と捉えるのは賢明ではないだろう。ラクランが、父ルパートが望む鋳型に最もぴったりとはまる子どもとして数十年を生きてきたことを考えれば、彼を選んだことは、親としての立場からの承認と考えられるはずだ。

2. きょうだいの生まれ順

生まれ順が人の性格に及ぼす影響については、大半の人が直感に基づく独自の考えをすでに持っているだろう。長子は、責任感が強く真面目だと言われることが多い。中間子は反抗的で注目を求めるタイプ、末っ子は何をしても叱られない特別な存在「ゴールデンチャイルド」として甘やかされがち、といったものだ。

advertisement

心理学の研究でも、この経験則のかなりの部分をある程度裏付ける結果が出ている。しかし多くの人が見過ごしがちなのは、この生まれ順が、ビジネスの世界でもものをいうケースがあるということだ。

『Academy of Management Journal』に掲載された2019年の研究は、企業の最高経営責任者(CEO)に調査対象を絞り込むことで、この問題を真正面から検証している。

研究チームは、進化論的な仮説から、長子は保守的になりがちではと予測した。チームはさらに、長子はあとから生まれたきょうだいに比べると、リスクを取りたがらない傾向が強いという仮説を立てた。なぜなら長子以外の子は、幼少期に最初から家庭におけるリソースを取り合う生活を送ってきたため、(リスクを恐れず)別の世界でニッチを築こうとする、と考えられるからだ。

研究結果も、この仮説を裏付けるものだった。長子であるCEOは、戦略的リスクを避ける傾向がある一方で、中間子や末っ子のCEOは、限界に挑戦し、実験的な試みを行う傾向がより強かった。

そして予想にたがわず、マードック家もこのパターンを踏襲しているようだ。父ルパートの長男として後継者に指名されたラクランは、長く慎重派として位置付けられてきた。ラクランは、一族が築き上げたメディア帝国と、家父長である父ルパートの保守的な世界観を忠実に守る愛息と見られることが多かった(今では54歳の成人男性だが)。

一方、マードック家で中間子にあたるジェームズ(52歳)と、長女のエリザベス(57歳)は、たびたび、一家の規範に収まらない個性を発揮してきた。エリザベスも、メディア制作の世界で独自の道を切り開き、成功を収めているが、次男ジェームズは、気候変動対策プロジェクトや民主党候補者に多額の資金を投じてきた人物で、2020年7月には、保守寄りの編集方針を理由に、父ルパート・マードックが設立したメディア企業、ニューズ・コーポレーションの取締役を辞任した。

3人目の妻とのあいだに生まれた年少の娘たち、グレースとクロエは現時点ではまだ若く(24歳と22歳)、今後についても、権力の構図の中では周縁に置かれる可能性が高いだろう。

マードック家の権力継承は、生まれ順による性格の違いという、ずっと以前から見られるパターンを踏襲した一例であるのは明らかだ。すなわち、長子は伝統を守り、それに続く子どもたちは限界を試す、というパターンだ。こうした継承はその後の世代でも、パターンが繰り返される可能性が高い。

次ページ > きょうだい間の対抗意識

翻訳=長谷睦/ガリレオ

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事