トランプ政権は、書類を持たない移民を、場合によっては適正な手続きを踏まずに拘束・国外追放したり、州兵を複数の都市に展開させたりもしている。民間企業同士の合併を承認する見返りに政治的な便宜を公然と要求し、合衆国憲法修正第1条で保障された権利が守られるのか多くの国民に疑問を抱かせている。手当たり次第に関税を引き上げて実質的に米国民に課税し、民間企業が価格を引き上げようとすると非難するなど、一部の途上国にしか見られないような専横的なやり方を強めている。
これらの行動は、ひとつひとつを孤立した事例として捉えれば、米国を築いた原則の終わりを告げるものとは思えないかもしれない。だが、全体として見ると、おおむね民間中心だったシステムから、あからさまに政治の影響を受けたシステムへの明確な移行を示している。これは、人々が米国を信頼してきた根拠を掘り崩す動きだ。
この移行が続けば、わたしたちはどこかの段階で、米国を米国たらしめている本質を失うことになるだろう。米国が完全な「バナナ共和国」(経済的に脆弱で政治的に腐敗した国)の地位に転落するまでにはまだ長い道のりがあるかもしれないが、限界がどこにあるのかを探るためにシステムに負荷をかけ続けるのは愚策だ。
破産と同じように、その限界は「ゆっくりと、それから一気に」訪れるだろう。そして、システムがいったん壊れてしまうと、それを修復するのは容易ではない。


