悲しい出来事に見舞われたとき、私たちは大抵、本能に従って引きこもる。だが、立ち直るために必要なスペースを取るためには、環境の変化が役に立つと考える人もいる。
「悲嘆(を乗り越えるため)のプロセス」における強力なツールとして、悲しみを癒すための旅、「グリーフトラベル(またはグリーフィケーション:グリーフ+バケーション)」が、さらに注目されるようになっているという。
静かに内省するためのひとり旅でも、たくさんの思い出がある場所に帰る旅でも、あるいは専門家のサポートが得られるウェルネスリゾートへの滞在でも、旅は日常生活の中ではなかなか得ることができない感情との距離や、新たな視点、習慣などを与えてくれる。
「治療法」ではない
シカゴで活動する認定臨床ソーシャルワーカー(LCSW)のリン・ザケーリによると、「グリーフィケーションは医療用語ではない」。だが、クライアントと彼女自身の人生のどちらにおいても、何度も繰り返し目にしてきたようなことを捉えた上で、生み出された言葉だと考えられるという。そうした旅に出ることは、悲しみから逃れるためではなく、その存在を許す心の余裕を持つために、日々対応をせざるを得ない事柄と、距離を置くことだ。
ザケーリはその旅について、「しっかりしなくてはいけない、と思うことなく……特別な思いを持つことに対して申し訳なさを感じることなく、泣くことができるように──それは、影響力のあることです」と述べている。
ニューヨーク長老派病院の精神科医でもあるワイル・コーネル医科大学のゲイル・ソルツ臨床担当准教授(精神科)も同様に、「旅は救いをもたらす」と述べている。ただ、注意が必要なのは、それがすべての人に同じように効果的なわけではないことだという。
ソルツによると、悲嘆から立ち直るための旅は、メンタルヘルス関連の分野以上に、旅行業界で広く認知されているものだ。効果を感じる人がいるとしても、すべての人にとって効果的な「治療法」ではない。
効果的な理由は?
旅が癒しを助けることになる主な理由のひとつは、「喪失」を思い知らせる日常的な行動、ルーティーンから引き離してくれることだ。ザケーリは、「職場でのミーティングや、子どもを学校に迎えに行くといったことに追われる人たちのほとんどは、(自分自身にとっての)『オンデマンド』で、悲しむことができません」と話す。
「旅は、一時停止ボタンを押してくれます。景色の変化は日常の雑音を消し、感情を表面に出すことを可能にしてくれるのです」
一方、ソルツによると、そうした環境の変化は、悲しみに対しての「異なる感覚」を与えてくれる可能性があるという。



