「大きく異なる環境が、喪失に対して常に持っていた感情との間に十分な距離を生み出してくれます。それによって、悲しみの量をコントロールしやすくなるのです」
環境が変わることによって、「どっぷりと悲しみに浸かって、打ちのめされたままの状態でいることがなくなる」のだという。また、「自宅では見ることのない日の出を見た瞬間に涙があふれ出てきた」と話すザケーリは、そうした経験から、日の出を見るたびにその人のことを思い出すようになったが、それは「耐えられないことではなく、やさしい気持ちになれることだ」と語っている。
悲しみを「避ける」のは逆効果?
だが、どのような旅でも効果的だというわけではない。専門家たちが注意を促すのは、グリーフトラベルは感情を抑え込んだり、否定したりするものであってはならないということだ。サルツは、死を否定したり、亡くなった人が家で待っているふりをしたりするなら、その旅は「悲しみに対処するものにならない」と指摘する。
ザケーリは、意図的に「距離を置くこと」と「避けること」の間に線を引いているという。
「家族の誰かを亡くして初めてのホリデーシーズンなどに、何かを乗り越えようする残された家族が、足早な旅や、なかなかスムーズにいかないような旅に出るケースを多く目にします。ですが、それは持つべき感情を持つためのスペースを取る旅になりません」
その旅が悲しみを癒してくるものになるかどうかを見極めるサインは、「感情が自然と沸き上がったり、振り返ったりすることができるかどうか」ということになる。
「自分に合った旅」を選ぶ
悲しみは、個人的なものだ。つまり、旅の行き先として最適な場所は、数えきれないほどある。
ザケーリは、自然に触れることに安らぎを見出す人も、たくさんの思い出が詰まった場所を再び訪れたいと考える人も、あるいは行ったことのない場所を訪れ、亡くした人が「いない未来」について考えることを選ぶ人もいるとして、次のように述べている。
「海、森林、日の出……それらはあなたに、何も求めません。ただ、そこにあるだけです」「間違った答えはありません」「家を買うときのように、『ここだ』という場所は、自然とわかります」
一方、サルツによると、特に悲しみを癒す助けになってくれる可能性が高い旅は、サポートプログラムの一環として計画されたものだという。
「『普通』でいることが求められる旅ではありません──悲しむことが理解され、許される旅です」


