「アノニマス」へのこだわり
現在dioramaの収蔵品は、平尾が依頼した作家の作品が3割、平尾自身の制作物が2割、ほかはコレクターなどから自ら買い付けてきたものという構成だ。平尾は、dioramaに展示する“モノ”の選定基準を言語化し、定めている。それが「質素、静寂、無機質、無為、そして“アノニマス(匿名性)”」だ。特にアノニマスにはこだわっており、すでに市場価値のある作家の作品ではなく、誰が作ったものなのかわからない、どこか未完成な部分があるものに引かれるという。例えば色付けする前の七宝焼きのように、完成前のほとんど誰も目にすることのない素材そのものにこそ、力強さと美しさが宿ると。その結果、現在ギャラリーにあるものの8割が日本の古くからの職人道具や日常使いの生活小物、アンティーク雑貨などになった。「特につぼや器など、欠けたり朽ちたりしていても、ギリギリ存在しているような繊細さは唯一無二。これは日本の農村美術に起因していると思うのです。かつて日本の農村では、お金ではなく時間をかけて一つひとつ丁寧に暮らしに必要な道具をつくり、修繕を繰り返してきました。時間を吸収しながら変化していく。この時間の厚みが生み出す、狙っていない繊細さに引かれるのです」
昨年、dioramaに展示するために、平尾が作家に依頼した作品がある。京都在住の若手陶芸家、明主航が手がけた「漆喰箱」だ。これは出土したローマ時代のしっくい箱へのオマージュとして生み出された。「陶芸家に焼き物ではない作品は失礼かと思ったのですが、明主さん自身、しっくいで箱を製作した経験があるとうかがい、依頼せずにはいられませんでした」と平尾。明主が生み出した箱は、天然素材のしっくいが持つはかなさを新しいかたちに変えて、次の時代に伝える作品になった。
今、平尾はむくのアルミを使った家具をつくりたいと考えているという。新しいものを排除するのではなく、古いものとの“主張しないミックス”にチャレンジしたいと。この融合から本当に伝えるべきものも見えてくるという。「日本のこっとう品や昔からの古道具などは年々数が減っています。日本では用途がわからない、古いものには興味がない人が増えている一方、海外の人はそこに魅力を感じ、海外に流出する傾向にあるからです。今、目の前にあるものを、100年後に価値が生まれるものにするためにも、これまで自分が大事にしてきた審美眼を信じ、妥協することなく作品と向き合っていきたい」
ひらお・だにえる・かい◎東京都生まれ。高校卒業後、インテリア関連企業へ就職。25歳で山梨へ戻り設計事務所を経て独立。2020年に「diorama」をオープン。自然でアノニマスなものをセレクトし展示。近年は作家とともに制作した作品にも注力。


