2025年9月25日発売のForbes JAPAN11月号は、文化の力で世界を駆ける「カルチャープレナー」たちを特集。文化やクリエイティブ領域の活動によって新ビジネスを展開し、豊かな世界を実現しようと試みる若き文化起業家を30人選出する企画で、今回で3回目となる。これまでの受賞者は、茶人の精神性を軸にお茶事業を世界に拡大し続けるTeaRoomの岩本涼や、盆栽プロデュースでラグジュアリーブランドともコラボする「TRADMAN’S BONSAI」の小島鉄平、障害のある「異彩作家」たちが生み出すア ートを軸にビジネスを展開するヘラルボニー(松田崇弥、松田文登)などがいる。
今回も、映画『国宝』で吾妻徳陽として所作指導を担当した歌舞伎俳優の中村壱太郎など、プロデューサーやコネクターを含む多彩な顔ぶれが揃った。伝統からアニメやAIまで、日本経済の未来を照らす「文化の底力」を感じてほしい。
ドラマや映画、アニメーションなど次々と話題作でVFX(視覚効果)を手がけるKASSEN。太田貴寛が集めたスペシャリストたちが、従来型の組織にできなかった構造改革に挑む。
1990年代後半から山崎貴監督らの活躍が目立ち始め、次第に市場が拡大し今や大手企業がひしめく日本のVFX界。そのなかで群を抜いて若く勢いのあるスタートアップが、太田貴寛が2021年に本格始動させたKASSENだ。VFX(Visual Effects=視覚効果)は、CGを駆使し、そこに撮影の工夫や合成を組み合わせることで、現実には存在しない映像を生み出したり、シーンに狙った意味や演出を与えたりするための表現手法のひとつ。
同社はこれまでに、NHK大河ドラマ『どうする家康』などのドラマや映画、Number_iや米津玄師といったアーティストのMV、サントリーや日本マクドナルドのCMなど多数の話題作でVFXを手がけてきた。KASSENという社名は、「合戦」に由来するが、太田が戦いを挑む相手は競合他社やハリウッドではない。「人類の文化や芸術、技術を、どう未来へつないでいくか」という、より大きな問いだ。
映画監督を志して大学で映画を学んだ太田は、卒業後にCM制作部で働いた。その後CMのVFX業に転身し、13年からVFXスタジオKhakiでオンラインエディターとなる。ただ、働くうちに違和感も覚えた。特にポストプロセス(仕上げ作業)は、編集・CG・カラーコレクション・合成など各担当が独立しベルトコンベア式の一方通行。「自分がつくった」という実感が湧きにくい仕組みであり、そんな条件下でベストを尽くす働き方が合わなかった。
「自分の工程以外に口を出さない、問題があると責任を押し付け合う──そうした構造的な問題もあると感じました。また、フリーランス化や人材流出で小規模ユニットが増え、大規模作品を完遂する力が弱まっていました。このままではハリウッド規模の作品はつくれない。もっと根幹からかかわりたいと思うようになりました」



