2025年9月25日、アップルの横浜テクノロジーセンター(YTC)でティム・クックCEOは「アップルは決して“現状”に満足しません。もっとよいものを求め続ける。そして、これは日本企業も同じです。決して満足せず、常に“さらに先”を目指して開発を続ける」
iPhone 17世代のカメラシステムに使われている、日本企業の要素技術の説明を受けながら、アップルと日本企業の共通性について言及した。
「これはアップルと日本企業が同じように持っているすばらしい特徴です。だからこそ、すばらしい協業の成果を挙げることができます」
実はこの日、横浜テクノロジーセンターには、TDK、AGC、京セラ、ソニーという日本を代表する4社のトップが一堂に会し、それぞれが供給する部品技術のプレゼンテーションを行っていた。
サプライヤーとの“共創”の深さを求めたYTC
横浜市綱島の旧松下通信工業の工場跡地に建設された横浜テクノロジーセンターは、単なる研究開発拠点ではない。2017年の開設以来、この施設はアップルと日本企業の技術者たちが日常的に顔を合わせ、試作品を手に取りながら議論を重ねる「共創」の場として機能している。
YTCのエンジニアは、米国本社からの開発依頼に応えるだけでなく、独自に技術開発を進め、逆提案を行っている。
おもしろそうな技術があればYTC開発し、うまくいったら米国のチームに提案する。そんな自発的な開発サイクルが確立されているのだ。
大きな優位性は日本語での密なコミュニケーションにある。日本にあるのは大企業ばかりではない。小規模な装置メーカーや中堅の素材メーカーにこそ、価値がある場合も多い。開発ループを日本国内で完結させることで、日本語でのコミュニケーションによって開発スピードを驚異的に高めることができているという。
クックCEOは「日本という国には、カメラ分野において歴史的にも現在においても、極めて重要な専門知識がある」と話す。
「日本のサプライヤーやパートナーが、iPhone 17、17 Pro Max、iPhone Airのカメラシステムの心臓部を支えています。この技術なくしては、我々が提供しているカメラの性能は実現できません」
世界最大級のテクノロジー企業のトップが、ここまで肯定的に話すには理由がある。それは「1+1が3になる」という表現だ。
「iPhone 17シリーズに搭載されているカメラは、アップルだけでも、パートナーだけでも達成できない。しかし協力することで成し遂げることができる。『1+1は3』になる。この関係性こそが日本のパートナーとの大きな意味だ」(クックCEO)
TDK──30年の信頼が生む磁気センシングの極致
TDKの齋藤昇社長が語った30年以上にわたるアップルとの関係は、初代iPod以前にまで遡る。同社のTMR(トンネル磁気抵抗)センサーは、iPhone 17のカメラシステムにおいて、オートフォーカスと光学式手ぶれ補正の精度を劇的に向上させている。
技術的な優位性は明確だ。従来のホール素子と比較して100倍以上の感度を持つTMRセンサーは、レンズの微細な動きをリアルタイムで検出し、その情報を基に補正動作を制御する。しかし、真の参入障壁は別のところにあった。
追加取材で明らかになったのは、プロセス技術の複雑さだった。TMRの磁気構造自体は分解すれば理解できるが、磁気のフラックスガイド(磁束の方向制御)を実現する製造プロセスは、半導体プロセスとは異なる「ビルを建てる」ようなメッキ工程を必要とする。この独自の製造技術こそが、他社の追随を許さない理由だった。



