8月某日、銀座のベージュ アラン・デュカス東京。フランスの巨匠シェフの店で、フランスの巨匠画家の絵をまとった日本酒が披露された。レセプションの主役は、山梨・白州の老舗酒蔵、七賢の『EXPRESSION 2012』だ。
「アート×日本酒」の3つの見方
ジャン=フランソワ・ミレーの「落ち穂拾い、夏」(1853年)がラベルを飾るこのスパークリング日本酒は、2012年に仕込まれた純米大吟醸の古酒を瓶内二次発酵させたという、なかなか手の込んだ代物だ。
青リンゴやマスカットを思わせる香り、繊細な泡立ち、そして複雑で重層的なフィニッシュ。アラン・デュカスのスペシャルランチとのペアリングでも絶妙な調和で味覚を楽しませてくれた。
1. 時間の芸術としての熟成
七賢の『EXPRESSION』シリーズは、醸造家の表現を追求する熟成スパークリング日本酒の限定シリーズ。これまでにキース・ヘリングなど様々なアーティストとコラボレーションを展開してきた。今回はミレー作品を70点所蔵する山梨県立美術館との協働で、同館所蔵の油彩画から選ばれた「落ち穂拾い、夏」の超高精細画像をラベルに使用している。
この日の発表会では同館館長の青柳正規氏が登壇。プロジェクトの意義を次のように語った。
「山梨銘醸が手がける『EXPRESSION』シリーズは、山梨県立美術館が誇るミレー・コレクションと、豊かな自然に囲まれた白州の地で醸された日本酒との特別なコラボレーションです。インスピレーションの源となった『落ち穂拾い、夏』は、ミレーの作品群の中でもひときわ象徴的な一枚。収穫後の畑で黙々と働く女性たちの姿には、かつての共同体に息づいていた助け合いの精神が静かに宿っています。そんな絵画の世界観と響き合うのが、『EXPRESSION 2012』です。白州の澄んだ水と風土が生み出した一本は、口に含むたびに山梨の自然の恵みを感じさせるものです」
ミレーが描いた「落ち穂拾い」は、収穫後の畑に残された穂を貧しい人々が拾い集める習慣。これは共同体の循環と共助を象徴する行為だ。誰も取り残さない、みんなで分かち合うという精神のもとに受け継がれた。同じように、2012年の酒を10年以上寝かせて新たな命を吹き込む七賢の手法も、時間をかけて価値を循環させる芸術といえる。




