「資金の流れを変える」業界横断型の取り組み
コーヒー業界のサステナビリティは、農法や技術だけでは成り立ちません。本質的な変化には、「資金の流れ」そのものを変える必要があります。
たとえば、生物多様性保全に必要とされる資金は年間約7000億ドルとされていますが、実際の投資額はその5分の1以下。民間資金の割合はわずか17%にも満たない一方で、森林伐採を助長する農業補助金や化石燃料への支援など、間接的に自然を損なうお金は今なお大量に動いています。
森林再生や再生型農業など、自然を基盤とする解決策は大きな可能性を秘めていますが、「時間がかかる」「リターンが見えにくい」と敬遠されがちです。こうした課題に応える形で、いま注目されているのが、グリーン・クライメート・ファンド(GCF)や地球環境ファシリティ(GEF)といった国際的な気候ファイナンスの仕組みです。
これらの国際機関は、それぞれUNFCCC(国連気候変動枠組条約)と世界銀行の支援を受けており、開発途上国における気候変動対策や持続可能な土地利用を支援するため、数千万ドルから数億ドル規模の「カタリティック資金(触媒的資金)」を提供しています。この資金が、初期リスクの吸収、分散された取り組みを投資可能なポートフォリオに統合、成果の可視化といった“投資を可能にする土台”を築いているのです。
こうした仕組みを産業全体のアクションとつなげているのが、「サステナブル・コーヒー・チャレンジ」です。これは2015年にスターバックスとコンサベーション・インターナショナルが立ち上げた業界横断のイニシアチブで、現在は120以上の企業や団体が参画。共通指標やツールを通じて、企業の「意志」を「実行」に変える仕組みを整えています。
重要なのは、こうした取り組みがGCFやGEFと連携することで、調達地域への本格的な投資へと発展しているという点です。つまり、産業・金融・環境という異なる領域が重なり合うことで、コーヒー産業は新たな成長の形を描き始めているのです。
「共同投資」が自然と産業を救う
GCFの仕組みを活かした具体的な試みのひとつが、いま私たちが設計を進めているAROMAプロジェクトです。これは、メキシコ、グアテマラ、ホンジュラス、ウガンダといった、世界の小規模コーヒー農家の約20%が暮らす地域を対象に、7年間で1億ドル以上を投資することを目指し、脱炭素とレジリエンス強化を両立する共同投資モデルを実現しようとするものです。
このプロジェクトの核心にあるのは、「競争ではなく、協働を選ぶ」という考え方。同じ地域から調達する企業同士が、AROMAのようなランドスケープ規模の取り組みに共同で出資し、成果も共有する。GCFはここに“起爆剤”となる資金を投入し、さらなる民間投資を呼び込む仕組みを支えます。


