建築家・工藤桃子が挑む「文化の記憶」の活用と継承

工藤桃子|MMA Inc. 代表取締役/一級建築士(撮影協力:Sotheby’s Japan Tokyo office)

工藤桃子|MMA Inc. 代表取締役/一級建築士(撮影協力:Sotheby’s Japan Tokyo office)

2025年9月25日発売のForbes JAPAN11月号は、文化の力で世界を駆ける「カルチャープレナー」たちを特集。文化やクリエイティブ領域の活動によって新ビジネスを展開し、豊かな世界を実現しようと試みる若き文化起業家を30人選出する企画で、今回で3回目となる。これまでの受賞者は、茶人の精神性を軸にお茶事業を世界に拡大し続けるTeaRoomの岩本涼や、盆栽プロデュースでラグジュアリーブランドともコラボする「TRADMAN’S BONSAI」の小島鉄平、障害のある「異彩作家」たちが生み出すアートを軸にビジネスを展開するヘラルボニー(松田崇弥、松田文登)などがいる。

今回も、映画『国宝』で吾妻徳陽として所作指導を担当した歌舞伎俳優の中村壱太郎など、プロデューサーやコネクターを含む多彩な顔ぶれが揃った。伝統からアニメやAIまで、日本経済の未来を照らす「文化の底力」を感じてほしい。

建築は文化を断絶させず次代へつなぐ装置。工藤桃子は素材からその必然性と可能性に注目し、文化の記憶をつないでいく。


「日本の伝統芸能は、5代目がいたからこそ6代目が存在する。同様に、次の世代に“任せた”と堂々とバトンを渡せるよう、恥ずかしくないものを残さなければならないと強く思っています」。こう語るのは建築家・工藤桃子だ。

さらに、「日本には世界的に見ても100年企業が圧倒的に多い。日本における建築業界もこの先、長い時間、そこに存在する建物を残していく立場なのに、今、どんどん捨てようとしている。スクラップアンドビルドは、積層されてきた生活文化の断絶を招きます。これ以上の危うさはない」と危惧している。

工藤は10歳までスイスで暮らした経験をもち、当時から日本文化に傾倒していた。帰国後、学者だった祖父や父の影響で、一時は物理学者を目指したが、美大で映像制作や舞台美術、演出などあらゆる表現方法に挑戦し、最終的に建築の道を選ぶ。「飽き性の私の探究心が唯一尽きなかった。建築は、その周囲のアートやカルチャー、環境などを総括するものと気づいたのです」。

現在、一級建築士として精力的に活動するなかで、「本当に必要なデザインか、頭でっかちな建築理論をデザインの言い訳にしていないか。そもそもこの建物自体が必要か」と自問を繰り返すという。すべての建築は、生活と密着した必然性から生まれたときにこそ、そこに“居る”人間にとって真の心地よい空間になると考える。その根底にあるのは、建築を学ぶ以前から抱いていた民俗学への強い関心だ。建築を単なる「モノ」ではなく、土地の記憶や生活文化の積み重ねと結びついた時空間としてとらえている。その例が青森県の個人住宅「House facing the sea」だ。県産材にこだわり、その地にあるべき建物とは?を追求。地元の職人と丁寧に作り上げた。

素材思考のジャーナル『MMA fragments』を刊行。vol.3はガラス。素材としての魅力や製作者に目を向け可能性を探る。Courtesy of Sotheby’s Tokyo
素材思考のジャーナル『MMA fragments』を刊行。vol.3はガラス。素材としての魅力や製作者に目を向け可能性を探る。Courtesy of Sotheby’s Tokyo
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文=真下智子 写真=若原瑞昌

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