建築家・工藤桃子が挑む「文化の記憶」の活用と継承

工藤桃子|MMA Inc. 代表取締役/一級建築士(撮影協力:Sotheby’s Japan Tokyo office)

こうした視点は、素材そのものがもつ必然性や歴史をどう生かすかという工藤自身の課題にもつながる。その研究結果を、自ら編集、執筆するオリジナルジャーナル『MMA fragments』に集約。タイル、ガラス、ウールなど、素材の本質を追求、発信している。なかでも内外装に多用される、量産品ではなく、完全オーダーメイドでもない「中量建材」に注目。例えばウィルトン織機で作られたカーペットはその象徴だ。この織機は昭和初期にイギリスから輸入され、後に国産化。大量製造されたものの繊維業界の衰退とともに今では国内に20台しか残っていない。カーペットの色ムラや不均一さに宿る美を再評価することが、衰退しつつある織物文化と繊維産業を持続させる鍵になると考える。そこで工藤は、この織機で織ったカーペットをはじめ、多治見のタイルや手漉き和紙などの、工芸建材の“手触り感”を体感できる宿「TACTILE HOUSE OSAKA」を設計した。 

advertisement
ウィルトンカーペットの堀田カーペットとともに工芸建材を体験できる場所「TACTILE HOUSE OSAKA」を設計。Courtesy of Sotheby’s Tokyo
ウィルトンカーペットの堀田カーペットとともに工芸建材を体験できる場所「TACTILE HOUSE OSAKA」を設計。Courtesy of Sotheby’s Tokyo

「建築家はもはや先生と呼ばれる特殊な文化人ではありません。次の世代に受け渡すためには、業界内に閉じこもるのではなく、違うカルチャーの担い手たちとつながり、我々の“世代”を強くしなければならないと思うのです」


くどう・ももこ◎東京都出身。幼少期をスイスで過ごす。2006年多摩美術大学環境デザイン学科を卒業後、13年に工学院大学大学院藤森照信研究室修士課程修了。16年にMOMOKO KUDO ARCHITECTS設立後、MMA Inc.を設立。

advertisement

文=真下智子 写真=若原瑞昌

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事