発達障害などに代表される脳の神経多様性を個性として捉え、社会で生かしていくという考え方「ニューロダイバーシティ」。しかし、その実現に向けては見えない壁が存在する。
本連載では、シンクタンクの日本総合研究所でニューロダイバーシティを推進する研究員の木村智行が、発達障害のある人たちが企業や組織で活躍していくことの重要性とその可能性、方法について発信していく。
異なる知を組み合わせる
日本でイノベーションが渇望されて久しい。企業のイノベーションに10年超携わってきた私がいま最も注目しているのが、「ニューロダイバーシティ」である。
私は現在、日本総合研究所でイノベーションを通じた社会課題の解決に取り組んでおり、その一環でニューロダイバーシティを推進する活動も行っている。発達障害のある人の能力発揮を実現するため、例えば企業と連携してマネジメント手法の研究会を主催したり、大学と共同研究を進めたりしている。
ここでまずは、発達障害とは何か、そして発達特性との関係を説明しておきたい。近年、メディアなどで発達障害についてよく取り上げられるようになったが、正しく理解している人はあまり多くないだろう。
脳・神経の発達特性は誰にでもあり、人によって異なる。その結果、物事の捉え方や得意・不得意に違いが生じる。発達特性が強い人の場合、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)と診断されることがあり、中には特定の分野で高い能力をもつ人々もいる。そしてあまり知られていないが、その能力をどれだけ発揮できるかは、環境に著しく左右されてしまう。
例えばASDの特性がある人は、時に高い集中力や論理的思考力をもつ反面、作業の割り込みなどによって集中力が大きく削がれてしまいやすく、コミュニケーションが苦手であることも多い。
一方でADHDの特性がある人は、幅広い物事に関心をもち、優れた適応力や発想力を発揮しやすいが、興味を抱くこと自体を制限されると、活動量が大幅に落ちてしまう場合もある。脳・神経の発達特性が強いと社会生活上の困難に陥ってしまうことがあり、そうした状況を発達障害という。国内で発達障害のある人の割合は、10人に1人に上るとも言われる。
発達障害の代表的な診断名と主な特性、強み
では、なぜイノベーションの推進にニューロダイバーシティ(脳・神経の多様性)が有効なのか。それは、イノベーションの父と呼ばれるヨーゼフ・シュンペーターをはじめ多くの研究者が言うように、イノベーションの原点となる新しい知(アイデア)は「異なる知の組み合わせから生まれる」と考えるためだ。
脳・神経の発達特性により、多様な視点や発想、能力が生まれる。それらをビジネスに取り入れることで、新たな価値創造につながる可能性がある。私はそのヒントを、ある経験から学んだ。



