もう一つのタイプは、一見関係ないような知識を用いて解決策を導き出す人である。ある時、私がリーダーを務めていたプロジェクトで、プロジェクト名の案をメンバーで出し合うことにした。しかし、いくら考えても浅薄なアイデアが出てくるばかりで、なかなか決まらなかった。新規事業のプロジェクト名は、大切である。プロジェクトのコア・コンセプトやアイデンティティを表現できるため、途中でメンバーが問題にぶつかっても、ブレない軸になるからだ。
いったん諦めようとしたその時、1人のメンバーが突然、堰を切ったように大航海時代の話を始めた。私は最初、プロジェクトとのつながりがわからず戸惑ったが、何かヒントがあるかもしれないとしばらく話を聞くことにした。
すると、そのメンバーは同プロジェクトで取り組もうとしていることが大航海時代に起きていたこととよく似ていると語った。そして、同時代に語源があるという、今もよく使われている言葉を用いたプロジェクト名を提案したのだ。それは歴史と紐付けてプロジェクトの目指すところやストーリーを示唆するとてもセンスのいいもので、これだ!と思い、採用を決めた。
注目すべきは、そのメンバーが時空を飛び越えて大昔の出来事と現代のプロジェクトとの共通点を見出し、発想していることだ。決して簡単なことではない。こうした会議の場では一般的に、ファシリテーターが議論を活発化させる手段として時間軸をずらして考えるように促した結果、ようやくそれを始める参加者がほとんどで、その場合も上手くいくとは限らない。そのメンバーの突出した発想力に、私はただ感服するばかりだった。
彼らに共通しているのは、いずれも組織の認知外から知見をもたらしていることだ。彼らは社会的に一定の評価を得ていたこともあり、社会生活上の困難に置かれている様子はなかったが、イノベーションの原点となる「新しい知を生み出す、異なる知」をもたらす人たちだと言えるだろう。
発達特性への配慮に欠けた人材採用が、国家的損失を生む
2022年から現職に就き、私はそこで「ニューロダイバーシティ」という言葉と出会った。きっかけは社内のヘルスケアの専門家から、発達障害にまつわる社会課題が深刻化していると聞いたことだった。私には発達障害のある親族がいることもあり、他人事とは思えず調べていくと、脳・神経の発達特性の違いから生まれる多様な視点や発想、能力があり、それらを持つ人々が社会で上手く生かされていない現実を知った。
例えばコミュニケーションが苦手だったり、忘れ物が多いといった「不得意」がある人は、企業において「仕事ができない人」だとみなされてしまうことがよくある。そうした人々は得意なことがあるにも関わらず、不得意な部分ばかりが注目され、能力を発揮する機会を得づらい構造となっている。
文科省等が2024年に実施した調査では、発達障害のある人の就職率は76.3%と、大卒・短大卒・高専卒の定型発達の人(98%)と比較して、約22ポイントも低い。さらに就職希望率も66.3%と定型発達の人(75%)を約10ポイント下回り、就職活動をする前の段階で就職を諦めてしまっている人の割合が、決して少なくないことが推測される。

*1 出典:文部科学省 令和6年度大学等卒業予定者の就職状況調査
令和6年度大学等卒業予定者の就職状況調査(4月1日現在)について)
*2 出典:日本学生支援機構 令和6年度大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書
令和6年度(2024年度)大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書
*3 就職率=就職希望者に対する就職者の割合
こうしたケースはいわゆるトップレベルの大学に在籍し、優秀な成績をおさめている人々にも見られる。面接重視の採用プロセスにおいて、コミュニケーションが不得意であるために何十社と落ちてしまうといったことが、実際に起きている。イノベーションを渇望している我が国において、これは大いなる損失だ。
では、どうしたらよいのか。アプローチはいくつかあるが、私は発達障害のある人をデジタル人材として活用することが、突破口になると考えている。デジタル領域では尖った人材が価値を認められやすく、海外を中心に多くの事例が生まれているからだ。
そうした認知が広まれば、デジタルを活用するあらゆる業界で発達障害のある人を生かす可能性がひらいていくと考えている。次回、詳しく紹介したい。


