異国で知ったイノベーションの現実
新卒で入社した大手システムインテグレーターでの勤務を経て、2015年から約7年間、私はメガバンクグループのイノベーション部隊でブロックチェーンなどの先端技術活用やオープンイノベーションの推進を行っていた。同グループには中途で入社したが、当時、金融機関が異業種から中途人材を採用することはまだ珍しかった。
入社して驚いたのが、組織の同質性が非常に高いことだった。例えば、当時の中核業務を担う社員の多くが男性であったことや、社員の振る舞い、考え方、それらを形成する経歴などだ。統制が取れているとも言えたが、同質性が高い組織では自組織の知見から離れた知見ほど、その有用性が評価されづらく、イノベーション推進のハードルになっていた。私自身、異業種のSIer時代に得た経験をもとに提案をしても思うような反応が得られず、幾度も歯がゆさを覚えた。
その後、欧州の金融グループヘと異動になり、多様な人種や性別、年齢、経歴のメンバーで構成されたイノベーション部隊で働いたが、期待通りには行かなかった。
当時、日本ではFintechという言葉がメディアに出始めた頃で、欧州の金融イノベーションは日本より少なくとも数年は進んでいた。中でも異動先は先進的な取り組みを行っていると聞いていたが、チーム内外で交わされていたアイデアは、今でいうモバイル専業銀行やロボアドバイザー、小口のキャッシュレス決済といった先行調査で見たことがあったり、論理的に導き出せるものが中心だった。
日本にいた頃より組織の多様性は格段に増したが、見たことのないような新しいアイデアを求めていた私は、静かに肩を落とした。
異能の人々との出会い
2017年に帰国した後は、同じ金融機関でオープンイノベーションプログラムの企画・推進に携わった。40社超の企業と500以上の新規事業のアイデアを生み出す活動を通じ、様々な担当者と出会う中で、私は2つのタイプの人たちに注目した。
まずは、他の人が知らない専門的な知識をもつ人だ。このタイプは先端技術のエンジニアや研究者に多かった。専門職ではごく当然のことだろうと思う人もいるかもしれないが、あるブロックチェーンのエンジニアを例にあげたい。
当時のブロックチェーンは、今以上に専門性の獲得が難しい状況だった。未整備の知識体系と求められる技術領域の幅広さが、その要因だ。知識を得るには海外のエンジニアコミュニティなどから積極的に情報を集める必要があり、例えば暗号技術をはじめ分散型システム、ネットワーク、アプリケーション開発など、多岐にわたる技術への理解が必要だった。
私自身、ITエンジニア出身で、オープンイノベーションの担当として当初はある程度それらの領域の技術をカバーできるはずだと思っていたが、知れば知るほど難しいと分かった。
しかし、私が出会ったそのエンジニアは、ブロックチェーンの実装に高い専門性をもち、それぞれの技術領域について深い理解があった。それだけでも十分にすごいのだが、ふと雑談のチャットでAIの話題になったときにはさらに驚いた。AIの仕組みにもとても詳しいのである。一つの専門性をもつだけでも大変なのに、どうしたらそんなに多くの専門知識をもてるのかと、不思議で仕方がなかった。


