文化の力で世界を駆ける「カルチャプレナー」たち 

細尾真孝|細尾代表取締役社長(写真左) 中村壱太郎|歌舞伎俳優(同右)

細尾真孝|細尾代表取締役社長(写真左) 中村壱太郎|歌舞伎俳優(同右)

本日発売のForbes JAPAN11月号は、「カルチャープレナー」特集だ。文化やクリエイティブ領域の活動によって新ビジネスを展開し、豊かな世界を実現しようと試みる若き文化起業家たちを30人選出。その多彩な事業や取り組みを紹介していく。

これまでの受賞者には、茶人の精神性を軸にお茶事業を世界に拡大し続けるTeaRoomの岩本涼や、盆栽プロデュースでラグジュアリーブランドともコラボする「TRADMAN’S BONSAI」の小島鉄平、障害のある「異彩作家」たちが生み出すアートを軸にビジネスを展開するヘラルボニー(松田崇弥、松田文登)などが顔を揃える。3回目となった今回も、伝統文化からアニメやAIまで、さらにプロデューサーやコネクターも含む多彩な顔ぶれが揃った。

表紙を飾ったのは、受賞者の一人であり、映画『国宝』で舞踊家・吾妻徳陽として所作指導を担当した歌舞伎俳優の中村壱太郎と、カルチャープレナーのさきがけ的存在である細尾真孝だ。


中村壱太郎の挑戦。ART歌舞伎を創設、映画『国宝』での所作指導も

今回、カルチャープレナー30のひとりに選出された中村壱太郎。歌舞伎の舞台に立ちながら、2020年尾上右近とともにART歌舞伎を立ち上げた。

「歌舞伎が世界で広く認められるためには、役者に客がつき役者が売っていく役者本位の歌舞伎から、シェイクスピア劇やオペラのように、作品そのものや本質的な『美しさ』で売れるビジネスに転換する必要がある」という考えのもと、コロナ禍を逆手に取り、歌舞伎に関する舞台で初めての配信公演を実現。映像や衣装などのアート、そしてデジタル技術と連携し、歌舞伎に触れる機会のなかった若年層や海外へのアプローチに成功した。この映像は後日映画化され、この11月には初の劇場公演も予定されている。

2020年に行われたART歌舞伎の舞台。中村が得意とする「踊り」と「魅せる」に特化した作品だ。コロナ禍当時、公演を配信すること自体が珍しかったなかで、有料配信に踏み切った。また、衣装や音楽も他ジャンルのアーティストとコラボを実現。出役として輝きながら、ART歌舞伎の創設人、そしてプロデューサーとしての手腕を見せた。11月8日には初の劇場公演が開催される。Courtesy of ART KABUKI
2020年に行われたART歌舞伎の舞台。中村が得意とする「踊り」と「魅せる」に特化した作品だ。コロナ禍当時、公演を配信すること自体が珍しかったなかで、有料配信に踏み切った。また、衣装や音楽も他ジャンルのアーティストとコラボを実現。出役として輝きながら、ART歌舞伎の創設人、そしてプロデューサーとしての手腕を見せた。11月8日には初の劇場公演が開催される。Courtesy of ART KABUKI

また中村は日本舞踊吾妻流の七代目家元でもあり、舞踊家・吾妻徳陽としての顔ももつ。16年公開のアニメ映画『君の名は。』では、神社の巫女の家系に生まれた主人公の三葉と妹の四葉による巫女舞のシーンの振り付けを担当。

映画「国宝」の一場面。「道成寺」では、二人が向き合うという本来の舞台ではない振り付けを提案したという。(c)吉田修一/朝日新聞出版 (c)2025 映画「国宝」製作委員会 
映画「国宝」の一場面。「道成寺」では、二人が向き合うという本来の舞台ではない振り付けを提案したという。(c)吉田修一/朝日新聞出版 (c)2025 映画「国宝」製作委員会 

さらに、大ヒット中の映画『国宝』では、吉沢亮や横浜流星への所作指導を担当した。歌舞伎の全体監修をした父・中村鴈治郎の専門が立役であることから、女方である壱太郎が『曽根崎心中』の劇中セリフや映画で魅せる形を指導。攻めの姿勢で他分野と融合し、歌舞伎の価値と可能性を広げている。

映画『国宝』の撮影現場に立つ中村。(c)吉田修一/朝日新聞出版 (c)2025 映画「国宝」製作委員会
映画『国宝』の撮影現場に立つ中村。(c)吉田修一/朝日新聞出版 (c)2025 映画「国宝」製作委員会
次ページ > 「多様な糸が調和する世界」を目指す 細尾真孝の功績

文=村上 敬 写真=ヤン・ブース スタイリング=井藤成一(中村) ヘアメイク=YASUHIRO MIKAMI

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