伝統工芸から宇宙まで「共通接線」で文化をつなぐ:吉本英樹

吉本英樹|TANGENT Founder

吉本英樹|TANGENT Founder

2025年9月25日発売のForbes JAPAN11月号は、文化の力で世界を駆ける「カルチャープレナー」たちを特集。文化やクリエイティブ領域の活動によって新ビジネスを展開し、豊かな世界を実現しようと試みる若き文化起業家を30人選出する企画で、今回で3回目となる。これまでの受賞者は、茶人の精神性を軸にお茶事業を世界に拡大し続けるTeaRoomの岩本涼や、盆栽プロデュースでラグジュアリーブランドともコラボする「TRADMAN’S BONSAI」の小島鉄平、障害のある「異彩作家」たちが生み出すア ートを軸にビジネスを展開するヘラルボニー(松田崇弥、松田文登)などがいる。

今回も、映画『国宝』で吾妻徳陽として所作指導を担当した歌舞伎俳優の中村壱太郎など、プロデューサーやコネクターを含む多彩な顔ぶれが揃った。伝統からアニメやAIまで、日本経済の未来を照らす「文化の底力」を感じてほしい。

英国でデザインスタジオを立ち上げ、現在は東京大学でも教壇に立つ吉本英樹。今取り組むのは、伝統産地とアーティストを結びつけ、技術革新を後押しするプロジェクトだ。


工芸の新たな可能性を模索する「Craft × Tech(クラフトテック)」プロジェクト。東京大学大学院で航空宇宙工学を学び、その後英国の名門アートスクールに進んでデザイナーとなった吉本英樹が2021年から注力する取り組みだ。

「通常は出会うことのない日本の職人と気鋭のアーティストを引き合わせたらどんなものが生まれるのか。工芸品の制作過程は驚くほどクリエイティブです。それを守りたいというよりも、楽しそうだからみんなやるよね? という感覚でした」

吉本はRoyal College of Artでデザインエンジニアリングの博士号を取得後、デザイン事務所Tangentを英国で起業。これまでにドバイの世界一高いビル、ブルジュ・ハリファで光の演出をしたり、エルメスのジュネーブサロン展示ブースの美術をつくったり、グローブ・トロッターのスーツケースをデザインするなど、海外のトップブランドとの仕事を多く手がけてきた。

昨年のLondon Design Festival開催時に、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)で行われた展示の様子。(photo by Ed Reeve)
昨年のLondon Design Festival開催時に、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)で行われた展示の様子。(photo by Ed Reeve)

そんな彼が東北の6つの工芸産地と落合陽一やサビーヌ・マルセリスら国内外のトップクリエイター6組をペアリングし、コラボ作品を1年かけて創出。アーティストの感性と職人技が凝縮された一点もののアートピースは、国内はもちろん、スイス、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館でも展示され大きな注目を集めた。

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文=林 信行 写真=若原瑞昌

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